2009年9月11日金曜日

レイモンド・ローウィ:アサヒゴールド復刻版


| tanzawa | jan. 2009 |

アサヒビール株式会社(本社 東京、社長 荻田伍)は、昭和33年に日本で初めて発売された缶ビール「アサヒ ゴールド」を復刻醸造したビール『アサヒ ゴールド 復刻版』を、全国のコンビニエンスストアの酒類取扱店において9月29日(火)より数量限定で発売します。
『アサヒ ゴールド 復刻版』は、レトロな商品に新しさを感じる若年層にむけてビールの飲用価値を新たに提案するべく、昭和33年に日本で初めての缶入りビールとして発売された「アサヒ ゴールド」の味わいとデザインを、製造当時の資料や設計値をもとに、現代の技術で再現したビールです。
麦芽の芳醇な味わい、ホップの程よい苦味がありつつも、副原料に米を使用することでマイルドな味を実現した飲みやすさが特長です。
パッケージは、故レイモンド・ローウィ氏による当時のパッケージデザインを再現しました。


『アサヒ ゴールド 復刻版』を限定発売(ニュースリリース) アサヒビール(2009年09月08日)
→http://www.asahibeer.co.jp/news/2009/0908_2.html

そうだ、これはレイモンド・ローウィのデザインであった。



『レイモンド・ローウィ展図録』(たばこと塩の博物館、2004年、139頁)によれば、「アサヒゴールド」レーベルは、アサヒビールが戦後最初に市場に投入した本格的な新製品であった。そのデザインの依頼先として選ばれたのが、米国のデザイナー、レイモンド・ローウィであった。1952年(昭和27年)1月、試作品約40種類がアサヒビールに到着し、その後修正を経て試作品の中から金枠の入ったデザインが選ばれた。ローウィは「アルミ箔」印刷を指定していたが、当時の日本にはその技術がなかった。印刷を依頼された凸版印刷はアート紙による試し刷りをローウィに送ったが、紙への印刷では金色が黒ずむためにOKがでなかった。その後、凸版印刷がアルミ箔印刷に成功するまで約3年を要したという。

さて、疑問なのだが、それでは朝日麦酒はラベルが完成するまでの3年間、新製品の発売を見送ったのであろうか?

アサヒビールの社史を調べてみた。それによれば、アサヒゴールドの開発は1952年(昭和27年)、ビール用大麦の統制緩和を機会にはじまったといえるようだ。しかし、それによってすぐに新製品の開発が始まったわけではない。技術者をヨーロッパに派遣したり、生産体制を見直したり、ミュンヘンから醸造学の専門家を招いたりしている。1956年(昭和31年)4月、ドイツから招いたW・クレーベル博士の指導のもと、生産方法と設備の革新を行う。そしてようやく翌1957年(昭和32年)3月17日に、アサヒゴールドが誕生するのである(『Asahi 100』アサヒビール株式会社、1990年、42頁)。

これをラベルに関する経緯とあわせて考えてみると、ラベルの依頼はこの製品の開発とは別に進行していたとしか思えない。残念ながら同社史にはアルミ箔への印刷が革新的であったことは述べられているが、その採用の経緯については書かれていない。



「アサヒゴールド」はもともと瓶ビールのラベルとしての仕事があり、その後1958年に缶ビールの登場によって、ふたたびローウィに依頼したのである。(↓ 写真は『レイモンド・ローウィ展図録』より)





レイモンド・ローウィ(1893-1986)は、パリに生まれアメリカに移り住み、活躍したインダストリアル・デザイナー。戦後1951年、日本の政財界からの招きで来日し、以後、たばこの「ピース」のパッケージ(1951年)、「アサヒゴールド」(1957年)、ミツワ石鹸パッケージ(1961年)、不二家ロゴ(1961年)など日本企業の仕事を受けている。






参考
20世紀デザインの旗手 レイモンド・ローウィ
http://www.jtnet.ad.jp/WWW/JT/Culture/museum/tokubetu/eventMar04/index.html

自伝『口紅から機関車まで』(1951年/邦訳1953年、英題 Never Leave Well Enough Alone)は、彼の自慢話が中心ですべてを額面通りに受けとるわけにはいかないが、その反面で彼がどのようにクライアントを魅了していったのかはよく分かる。「自分を前面に押し出す天賦の才」(ポール・ジョダード『レイモンド・ローウィ』122頁)によって、彼はTIME誌の表紙(1949年)にも登場しているのだ。


近年は、ローウィの業績、神話の見直しを中心とした研究が行われている。Stephen Bayley, ‘Public Relations or Industrial Design? Lowey and his legend’, Raymond Lowewy: pioneer of American Industrial Design (1991)や、ジョダード『レイモンド・ローウィ』(高島平吾訳、鹿島出版会、1994年)は、その例である。

冒頭の写真は今年(2009年)1月、丹沢に登ったおりに休憩所で見つけて撮影したもの。アサヒビールの現在のaマークは、1986年(昭和61年)に制定、それ以前は復刻商品のラベルにもある旭日マークが用いられていた、とアサヒビールのホームページには書かれている。ということは、写真の空き缶は少なくとも23年間、この場所に放置されているということになるのだろうか。アルミ缶の耐久性、恐るべし。

* * *

追記:復刻ブームらしい。

「懐かしのビール」大手3社が復刻版相次ぎ発売

ビール系飲料の販売低迷が長引くなか、大手各社が「懐かしのビール」の復刻版を相次いで売り出す。苦みなど昔ながらの味わいを再現。かつてのビール党を再び市場に呼び込み、若者には本来のうまさを知ってもらうねらいだ。数量限定の話題性も加え、ビール復権の足がかりとしたい考えだ。(後略)

asahi.com(朝日新聞社):「懐かしのビール」大手3社が復刻版相次ぎ発売 - ビジネス・経済(2009年9月13日取得)
http://www.asahi.com/business/update/0912/TKY200909120002.html

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