2009年9月24日木曜日

ハービー山口氏に学ぶ

突然カメラとマイクを向けられて、パシャパシャ、フラッシュをたかれながらインタビューを迫られても、たぶん後ろを向いて逃げ出すと思う。見知らぬ相手から良い反応を引き出すためには、それなりの手順というものが必要になるはずだ。自分が悪意を持っていないこと、相手のことを本当に知りたいと思っていること。それをなんらかの方法で相手に伝える必要がある。

8月、川崎市市民ミュージアムで開催されていた「ハービー・山口写真展」を観た。訪れたその日はちょうどハービー山口氏のトークショーがあり、折角の機会なので、1時間あまりのトークを楽しんだ。

ハービー・山口写真展 「ポートレイツ・オブ・ホープ」~この一瞬を永遠に~
川崎市市民ミュージアム、2009年06月20日~2009年08月16日。
http://www.kawasaki-museum.jp/display/exhibition/exhibition_de.php?id=66

等々力緑地を望むホールには若い人を中心にかなりの数の聴衆が集まった。ハービー氏曰く、「2000人ものお客様に来ていただいて光栄です」(うろおぼえ)。それは冗談であったが、それでも一桁少ない程度であったか。

トークの内容は、自身が写真の道に進むまで、進んでからのさまざまなこと。展覧会に出品されている写真についての、思い出とコメント。なによりも興味深かったのは、写真をどのように撮るのかという話である。もちろん、技術的な話ではない。カメラの話でもない。ハービー山口の写真の、あの素敵な、こちらを見つめる数々の優しいまなざしは、いかにして捉えられたのか、という話である。

スナップなのである。街角で、カフェで、工事現場で、小型カメラで撮られたスナップ写真。一瞬、誰にでも撮れそうに思えるのだけれども、実際にはこんな難しい写真はない。自分の良く知っている相手からだって、こんな素敵な表情を引き出すことは容易ではない。

ハービー氏曰く。たとえば野球場のビールの売り子であれば、それと決めたターゲットの女の子からまずはビールを買う。それも1杯ではない。2杯、3杯と買い、その間に彼女とコミュニケーションをし、それから初めて写真を撮る、という話になるのだそうだ。あるいは、工事現場であれば、作業をしている人たちと立ち話をする。カメラは鞄に仕舞ったまま、写真の話はしない。そして、コミュニケーションが成立してから、初めて写真の話をする。30分後に休憩になるから、そのときならいいよ、という相談になる。しばらく辺りをぶらぶらして、30分後にふたたび現場を訪れ、素敵な笑顔を数ショット、おさめる。1枚1枚の「スナップ」は、そのようなプロセスの積み重ねで生まれてきたものなのだ。


で、私が何を学んだのかといえば、やはりコミュニケーションの不足である。いきなりカメラを向けられても笑顔を返してくれる人もなかにはいるだろう。でも、多くの人は、素性の知らない相手に写真を撮られることに抵抗と警戒を感じているはずだ。そのことを自戒しなければならない。でも、私にいったい何ができるであろうか。煮干しやマタタビ、猫じゃらしを常備するところから始めるべきなのだろうか。いやいや、それでは相手の顔を札束で叩くようなものではないだろうか。あるいはまるで援助交際ではないのか。






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