2009年9月4日金曜日

東京都のシンボル(3):亀の子と銀杏

マンホールに刻まれた変な紋章から始まった論考の続きである。

まずは銀杏から。東京都のシンボルについて検索してみると、以前読んだ記憶のあるエキサイトの記事がヒットした。

東京都のシンボルマークはイチョウではなかった (Excite Bit コネタ) | エキサイトニュース
http://www.excite.co.jp/News/bit/00091164589710.html

概要だけ、引用する。

私は清掃車のイチョウマークの印象が強かったせいか、てっきり東京都の木、イチョウをデザインしたものかと思っていたのだが実はこれ、違うようなのだ。
東京都のHPを見てみると、シンボルマークの説明にはイチョウのイの字も出てこない。
書いていないということはイチョウとは関係ないのだろうが、ここはやはりきちんと聞いて確認したい、と東京都に問い合わせてみた。
「イチョウではありません。このマークは東京都の頭文字であるTをデザインしたものです」ときっぱり。
そして現在のシンボルマークが平成元(1989)年6月1日に制定される。デザインは藤井功氏によるもので、候補作品20点の中から選ばれた。
さらにしつこくシンボルマークの担当部署である文化振興部に詳しくデザインについて聞いてみた。
「色もグリーンでイチョウに似ているので、イチョウも秘めてデザインされたのかもしれませんが……、でも東京都の頭文字のTをかたどっているということです。三つの同じ円弧で構成されていますが、三つの円は躍動、繁栄、潤いを表現しています」

最初にこの記事を読んだときはただ、へぇ、と思った。しかし、いろいろと疑問に思うことがあり、改めて調べてみた。

最初にこの記事にもリンクがある東京都のホームページへ。

都の紋章・花・木・鳥|東京都
http://www.metro.tokyo.jp/PROFILE/mon.htm

■東京都紋章



昭和18年の東京都制施行の際、東京市のマークを受け継いだもの。
このマークは、市参事会員渡辺洪基が発案したといわれ、明治22年12月の東京市会で決定されました。
紋章の意味は東京の発展を願い、太陽を中心に6方に光が放たれているさまを表し、日本の中心としての東京を象徴しています。
昭和18年11月2日付で告示され、東京都の正式な紋章とされました。

■シンボルマーク



東京都シンボルマーク選考委員会が候補作品20点の中から一つを選定し、平成元年6月1日に、東京都のシンボルマークとして制定しました。
このシンボルマークは、東京都の頭文字「T」を中央に秘め、三つの同じ円弧で構成したものであり、色彩は鮮やかな緑色を基本とするものです。
これからの東京都の躍動、繁栄、潤い、安らぎを表現したものです。

亀の子は「紋章」、イチョウは「シンボル」と区別されている。亀の子が太陽をイメージしたものとは知らなかった。へぇ。たしかにシンボルの説明に「イチョウ」のことはまったく触れられていない。

さて、新シンボルの制定は1989年ということなので、朝日新聞記事データベースで1988年、1989年について「東京都&シンボル」で検索してみた。で、とりあえず最初に結論から。

1. シンボルマークのモチーフは、TOKYOの「T」であり、かつ東京都の木「イチョウの葉」である。
2. デザイナーは「レイ吉村」氏である。
3. 制定は、1989年6月1日。
4. 旧紋章制定から100年、都庁の新宿移転、というタイミングでのCI導入。
5. デザイナー11人への指名コンペ。20案から選ばれる。

1989年3月22日の朝日新聞:

「亀の子」から「イチョウ」へ 都が新シンボルマーク
東京都は現在の都章(通称亀の子マーク)に代わる新しいシンボルマークを検討しているが、22日、「都の木」イチョウを図案化した作品を新シンボルマークとすることにした。この日午後開く「都シンボルマーク選考委員会」(河野鷹思委員長)で正式に決める。
新シンボルマークのイチョウは緑色。東京の「T」のイメージを中央に置き、3つの同じ円のカーブで構成したシンボルは、新生東京の躍動感、生命感、気品と威厳、バランスの取れた成長などを表している。これまで20の候補作について都民投票を行ったが、投票結果ではようやく5位に入っていた作品、という。
朝日新聞1989年03月22日 夕刊

記事では、「イチョウを図案化した作品」と断言している。

1989年5月16日「ひと」欄は、デザイナーに取材している。

レイ・吉村さん 東京都のシンボルマークをデザイン(ひと)
東京都の紋章は、通称「亀の甲マーク」。明治22年(1889)以来1世紀、都旗からマンホールのフタにまで使われてきた。それが6月1日、新しいシンボル「緑のイチョウ」にとって代わる。
著名デザイナー11人による指名コンペで、作品20点の中から選ばれた。
「焼け野原の東京が、もっともエキサイティングな世界都市に。これから求められるのは、潤い、優しさ、ゆとり。そんな気持ちを込めた」。東京のTをイメージし、3つの円の曲線で構成。だれにも描ける単純明快さ。
いま企業はCI(コーポレート・アイデンティティー)時代。会社マークにとどまらず、社員の意識変革にまでつなげようという企業戦略。その波は自治体にも及んだ。東京都は2年後の都庁移転を見据え、CIに取り組む。(後略)
朝日新聞1989年05月16日 朝刊

デザイナーは、「レイ・吉村」氏である。エキサイトが「藤井功氏」とした理由はわからない(「東京都&藤井功」でヒットした東京都のページはこちら)。

朝日はここでも新シンボルを「緑のイチョウ」としているが、デザイナーのコメントにはそのような発言はない。とはいえ、日本人で、このカタチを見て「イチョウの葉」を連想しない人はいないだろうし、デザイナーがそれを考えなかったはずはない。でなければ、Tがこのカタチ、イロになる必然性がない。エキサイトの取材に答えた都担当者の回答にはかなりずれた印象がある。まぁ、公式サイトに記されていない以上、それが公式見解なのかも知れないが。

新シンボルは6月1日に正式に告示された。

東京都の新しいシンボル、「イチョウの紋」告示
東京都は1日付の公報で、新しい都のシンボルマーク「緑のイチョウ」を正式に告示した。これまで100年間にわたって使われてきた紋章の「亀の甲」に代わるもの。東京の頭文字Tに、「都の木」であるイチョウをイメージし、躍動、潤い、安らぎなどを表している。「亀の甲」は歴史的保存物などに使われる。
朝日新聞1989年06月02日 朝刊

おやおや、3月22日の記事では「通称亀の子マーク」といっていなかったか? 5月16日、6月2日の記事では「亀の甲」になっている。「亀の甲」といえば「亀甲紋」であり、東京都の紋章は亀甲紋ではない。「亀の子」と呼ぶほうがふさわしいと思うが。


参考:家紋図鑑_亀甲 http://www.harimaya.com/o_kamon1/zukan2/kikkou.html

ブログなどを検索していると、「亀の子」マークが廃されたような記述もみられるが、そうではなく、使い分けがなされるようになったということだ。

新シンボルの制定過程についても新聞記事を追ったが、それについてはまた追って記す。

ところで、私はこのイチョウマークを見ると大林組のシンボルを思い出す。



似ているなぁ、とずっと思っていた。で、今回調べてみると、なんと驚き、デザイナーは東京都の新シンボルと同じレイ・吉村氏であった。新社章の制定は1990年7月1日であり、東京都の新シンボルから1年後のことである。

建設各社、イメージアップ作戦――CIの導入や制服一新。
1990/06/15, 日本経済新聞 朝刊
大林組は来年創業百年を迎えるのを機にCIを導入、新しいシンボルマーク=写真=や企業理念を制定した。「自然との調和」「空間への新たな価値観」という理念を象徴するマークは緑と青で表現する地球と未来。(記事抜粋)

大林組が新社章を制定したのは1990年7月であるが、CI活動のスタートは1988年1月。本格的スタートは翌1989年初頭のことである(『大林組百年』1993年、845頁)。デザイナー、デザインの決定過程は不明であるが、レイ・吉村氏の仕事としては、時期が重なっていたのではないかと思われる。

この話、もう少し続く予定。

2 件のコメント:

  1. コメントありがとうございました。
    他の記事も読ませていただきました。
    「中銀カプセルタワー」を事務所にしていた
    友人がいて(もう出ましたが)
    中に入ったことがありますが、
    狭いし丸窓は開かないし、
    お世辞にも快適とは言えませんでした。

    このイチョウマークや水道局の問題にも
    関係あると思うんですが
    近頃こういうデザインやCI(VI)、
    広告に関しても、何も知らない人が、
    大切な決定・判断をする場合が非常に多いようで
    この先どうなっていくのか不安です。
    そのために僕も今、シルバーウィーク中、
    無意味な変更のために仕事をする羽目に
    なっているわけですしね(笑)。

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  2. やっとかめ様
    とりとめのない記事にコメントありがとうございます。
    また、お休み中のお仕事お疲れ様です。

    中銀カプセルタワー、明かりが点いていて、人の影がみえて、ああ、あの建物は生きているのだな、と感じました。中をご覧になったのですね。うらやましいです。

    面白いのでこのあともう少し調べるつもりでいますが、水道局の件、そもそも本当に明確なルールが存在しているのかどうか(少なくともこれまで従ってきたのかどうか)、はなはだ疑問になってきました。

    担当者毎に他人の知らない俺様ルールがあるから現場はつねに苦労が絶えないということになりましょうか。

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