2011年2月17日木曜日

東京都庭園美術館:
20世紀のポスター[タイポグラフィ]01




20世紀のポスター[タイポグラフィ]
——デザインのちから・文字のちから——
東京都庭園美術館
2011年1月29日〜3月27日


チラシの表はTypographyの「T」(K100)を中心にC100M100Y100の色玉。「印刷」をイメージしているのでしょう。
そういえば、庭園美術館のシンボルも「T」の意匠でしたね。
掛けているのかな。


それはないか。

そしてこのエントリを書いていて気がついたのですが(遅い!)、裏面も図版の配置が「T」なんです。


右上にはCMYKの色玉。徹底していますね。
展示されているポスターの大部分がリトグラフかシルクスクリーンで、オフセットでも4色のものはほとんどない、という点はさておき(←いやな性格だなぁ)

ざんねんなことに、表裏をならべてみると「T」の位置が一致しない。
太さは一緒なのに。
ここはぜひとも徹底して欲しかった。



* * *

展覧会の主旨は、竹尾が収集したポスターコレクション約3,200点のなかからタイポグラフィを扱ったものを選び、展示するというものです。すなわち、大判ポスターに現れたタイポグラフィ表現の時代による変遷を追う、ということです。

展示は時代別に4つの部に分かれています。
第1部 1900s-1930s、第2部 1940s/1950s、第3部 1960s/1970s、第4部 1980s/1990s。図録にはこのように第1部のみ「-」で年代が結ばれ、第2部からは「/」です。なにか意味があるのかと思ったのですが、庭園美術館の展覧会サイトではいずれも「〜」で結ばれていますので、深い意味はないのか知らん。

この時代区分は基本的には「印刷技術」と「表現様式」の変化によってなされているように思われます。とくに第4部のタイトルは「電子時代のタイポグラフィ:ポストモダンとDTP革命」。パーソナル・コンピュータの登場と進化によって、表現がいかにして拡がったかのかを見ることができます。

* * *

私の好みのポスターをいくつかあげてみると……

Take a cheap return ticket, Football
Andrew Power, 1925、図録28頁。

Wash day, Rural Electrification Administration
Lester Beall, 1937、図録36頁。

Savon Steinfels, extra ausgiebig
Helbert Leupin, 1943、図録41頁。

DUNLOP
Raymond Savignac, 1953、図録53頁。

Phantasie und Groteske in der bindenden Kunst
Atl Aicher, 1955、図録57頁。

tool, ricerche interlinguistiche
Angiolo Giuseppe Fronzoni, 1971、図録90頁。

なにが言いたいのかというと、私の印象に残ったポスターのほとんどが「タイポグラフィ」が主題というには微妙だということです。

逆に文字だけ、ほとんど文字だけのポスターの共通点をみてゆくと、その多くがデザイン団体の展覧会告知であったり、企業のものであっても商品ではなく、イメージ広告が中心なのです。この展覧会のために選ばれたポスターがどれほど時代を代表するのか分からないのですが、そこからは「タイポグラフィを主体とするポスターは、モノを売るためには適していないのか」という疑問が生じます。

このような疑問に対して、展覧会図録に西村美香氏(明星大学準教授)のすばらしい論考が掲載されています。

……亀倉雄策の「ニコンSP」ポスターもクライアントで日本光学がついているものの広告宣伝用というよりも展示会の商品のバックを飾る壁面装飾用であって、もともとは日宣美展出品作品でデザインが先行する実験的作品であった。今日、50年代60年代を代表する日本のポスターとして紹介されているものにはこうしたクライアントのないノンコミッションのものがずいぶんとある。それには先ほどより述べている日宣美の存在が影響している。……日宣美展で入賞するとその後はデザイナーとして世間に認められるところとなり……そのポスターは後年に至るまで秀逸作品としてとりあげられることになる。そのポスターによって商品の売り上げが伸びた訳でもなく、大衆の心を動かした訳でもないのにである。……
しかしクライアントもなく大衆に支持もされていないポスターが本当に優れたデザインなのであろうか。……広告として機能しておらず大衆をなかば置き去りにしたデザインを優れたものとして評価するのはいかがなものかと考える。
西村美香「日本のポスター・デザインとタイポグラフィ」『20世紀のポスター[タイポグラフィ]』展覧会図録、日本経済新聞社、2011年、181-182頁。

もしもデザインの役割を視覚的造形的手段によって問題を解決すること、とするならば——クライアントはそれを期待してデザイナーに依頼すると思うのですが——ノンコミッションのポスターを「優れたデザイン」とすることは大いに疑問です。タイポグラフィの試みは、はたしてどれほど大衆に影響を与え得たのか。どれほどクライアントの要求に応え得たのか。デザイナーの理想・理念の世界は十分に理解できるのですが、それに対する評価には現実社会との接点が見えないのです。そして今回の展示=セレクションの方針にも同じことが言えます。

* * *

本展の展示では、作品のキャプションは作者名、タイトル、年代程度の記述に留まっています。とくに、どこの国のものかということは書かれていません。展覧会の構成自体「印刷技術」と「表現様式」に焦点を当てていますので、キャプションの限定的な情報からは、企画者は様式がインターナショナルであることを前提としていると考えて良いでしょうか。

展示におけるキャプションが簡略である一方で、図録は非常に充実しています。
作品については、デザイナー/タイトル/内容/制作年/国/クライアント/サイズ/用紙(種類・斤量)/使用書体/印刷技法(+色数、線数)という情報まで記載されているのはさすが竹尾のコレクションです。もちろん図録に使用されている用紙の種類も奥付に記載されています。

また、図録の半分近い頁が、上で紹介した西村美香氏を含む数名のデザイン史研究者による関連研究に充てられているのも特筆すべきです。さらに「あなたにとってタイポグラフィーとは?」という質問に対し、12人のデザイナーがそれぞれ回答を寄せています。


* * *

まったくの余談ですが、警備員さんが巡回しながら作品を熱心に観賞していたのが印象的でした。今回の展示の中で彼の好きな作品は木村恒久の「映画ツィゴイネルワイゼン」(1980)だそうです。

シネマ・プラセット 1980
木村恒久, 1980、図録101頁。

彼はフロンツォーニの作品の前ではさかんに首をかしげていました。

tool, ricerche interlinguistiche
Angiolo Giuseppe Fronzoni, 1971、図録90頁。

私も同意します。


| teien museum | feb. 2011 |

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