前日土曜日の混雑を聞いていたので、庭園美術館の人混みを見るのも一興かと思いましたが、午前中はふつうでした。午後は大変混んでいたようです。図録も売り切れたとか。
感想はすでに書いたとおり(→こちら)。改めて、展示されているポスターに偏りを感じました。作品のすばらしさ、好き嫌いは別のはなしです。優れた作品が多数あります。しかし、その多くが展覧会の告知ポスターであり、商品広告のポスターが数えるほどしかないことには違和感があります。
そこで、図録に掲載されている作品を、クライアントの分野別にカウントしてみました。誰の役に立つのか分かりませんが、とりあえず私の好奇心は満たされるので(笑)。
分類は、1. 展覧会告知、2. 展覧会以外のイベント告知、3. 公的部門、4. 商品広告を除く企業広告、5. 商品広告。なお、展覧会告知にはデザイン系のイベント、美術系大学でのイベント告知ポスターを含みます。
結果は次の通り。
分類 | 点数 | ||
1. 展覧会告知 | 53 | ||
2. イベント告知 | 31 | ||
3. 公的部門 | 9 | ||
4. 企業広告 | 8 | ||
5. 商品広告 | 8 | ||
合計 | 113 |
出品されているポスター113点のうち、展覧会告知とイベントの告知を合わせると84点、それ以外が25点。
企業がクライアントとなっているポスターは16点。しかも商品広告にはカッサンドルやサヴィニャックら、イラストが主体の作品が含まれており、タイポグラフィのポスターと呼べるかどうか微妙なものが大半です。
おおむね印象通りでしたが、意外なのは公的部門の少なさ。そういえば、ソビエトのポスターが少ない。これが影響しているかもしれません。試しに国別の点数も示してみましょう。
国 | 点数 | ||
スイス | 33 | ||
アメリカ | 28 | ||
日本 | 21 | ||
イタリア | 8 | ||
ドイツ | 8 | ||
フランス | 4 | ||
イギリス | 4 | ||
オーストリア | 2 | ||
ポーランド | 2 | ||
デンマーク | 1 | ||
ソビエト | 1 | ||
フィンランド | 1 | ||
合計 | 113 |
スイスが33点、次いでアメリカが28点です。アメリカのポスターはシリーズで出品されているものも個別にカウントしているので、圧倒的にスイスのポスターが多い。しかも、ドイツ語圏のものだけです。他の国も含め、ドイツ語圏という分類で数えると43点。半分まではいきませんが、かなり多い。対して、ソビエトのポスターは1点のみ。ポーランドが2点。
これだけ偏りがあると、竹尾コレクションの出自も検討しなければなりませんね。
竹尾コレクションは、
ヨーロッパを中心にアメリカ、ロシア、日本などの主に20世紀のポスターを広く収集していた、ニューヨークのラインホールド・ブラウン・ギャラリー・ポスターコレクションを、株式会社竹尾が創業100周年記念事業の一環として1997年に購入したものです。
竹尾ポスターコレクションは、多摩美術大学に寄託され、株式会社竹尾と多摩美術大学グラフィックデザイン学科による共同研究として、1998年より様々な視点からコレクションの研究に取り組んでいます。
竹尾ポスターコレクション | 竹尾の文化活動 | 会社情報 | 竹尾
うーん、ここからはコレクションの方針はよく分かりません。アメリカのポスターが多いのは、アメリカで蒐集されたから、でしょうか。日本が多いのは、コレクションとは別に今回の展覧会のために出品されたものがあるからです。
まとめると、非商業ポスターが8割強。ドイツ語圏ポスターが4割弱、スイスとアメリカで5割強。日本を加えると7割強。
コレクションもしくはセレクションにバイアスがあると前提すると、今回の展覧会のタイトルは、正確には「20世紀スイスとアメリカのタイポグラフィによる非商業的ポスター(併催日本のポスター)」展ということになりましょうか。
バイアスがないと前提すると、別の可能性が考えられます。ここではいくつかの仮説を提示するに留めます。
- ポスターはもともとイベント告知(含展覧会)のためのものであって、商品広告のものは少ない。だからタイポグラフィのポスターにおいても商品広告は少ないのだ。
- 展覧会告知のためのものであるから、実験的な作品をつくることができ、それゆえ優れたものが多い。
- タイポグラフィの試みは、常にスイスがリードしてきた。
- モダニズム=スイス vs ポスト・モダニズム=アメリカ の構図が存在する(ところでスイスにポストモダンはあるのか?)。
思いついたらまた追加します。
* * *
先のエントリでも書きましたが、展示のキャプションの情報が少ない。それは悪くないのですが、国名が示されていないのは妙です。今回、ドイツ語のポスターが多いことは、展覧会に関連するtweetの会話でも散見されましたが、はたしてスイスのポスターと認識されていたかどうか。私はソビエトのポスターだと思ったらアメリカだった、というものがありました。ポスターのテキストが英語だから、当然といえば当然なのですが……。でもアメリカだけが英語圏ではありませんしね。会場で配布していた出品リストにも国名は入っていませんでした。
関連エントリ
東京都庭園美術館:20世紀のポスター[タイポグラフィ] 01
タイポロジック:活字のチカラを考える
関連リンク
20世紀のポスター[タイポグラフィ]──デザインのちから・文字のちから:artscapeレビュー/プレビュー|美術館・アート情報 artscape
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