2011年2月15日火曜日

東京国立近代美術館:
栄木正敏のセラミック・デザイン




栄木正敏のセラミック・デザイン —— リズム&ウェーブ
東京国立近代美術館本館 ギャラリー4
2011年1月8日(土)~2月13日(日)

量産陶磁器の展覧会。
副題の「リズム&ウェーブ」とは、作品のタイトルでもある。
チラシの中央の器が「ウェーブ」。
白と、無釉の縁が創り出すラインがとても美しい。

私が使ってみたい思ったのは、「ハンドルの器」シリーズ(↓)。

『栄木正敏のセラミック・デザイン - リズム&ウェーブ』展覧会図録
東京国立近代美術館、2011年1月、45頁。

手にとって試してみたい衝動に駆られる。
tweetを検索してみても、同じようなコメントが多い(笑)。
入手可能なのだろうか。

ギャラリー4で開催される工芸品/デザインの展覧会はいつもシンプル。会場を一周したらベンチに置いてある図録の解説を読み、ふたたび会場を回ることをお勧めする。今回は図録の他に機関誌『現代の眼』も。栄木正敏氏自身の言葉、そして美術ジャーナリスト井上隆生氏の記事は読み応えがある。なぜ図録に載せなかったのだろう。

* * *

以下、メモランダム。

セラミック・デザイナーの栄木正敏(1944- )は、プロダクト・デザイナーの多くが設計図の完成をもってデザインの仕事を終えるなかで、製図から原型制作までを一貫して手がけることで際立った存在です。道具のひと削りに微妙な差が生じる陶磁器デザインの石膏原型を自ら行うことで、手わざを通した思考から、使いやすさ、製造工程の合理性、形へのこだわりをダイレクトにプロダクトに反映し、高い質と揺るぎない独自のフォルムを実現しています。
展覧会サイトより

展覧会サイトの記述にもあるように、栄木正敏氏はプロダクト・デザイナー。白山陶器の製品で知られる森正洋氏も同じく陶磁器専門のデザイナー。デザイナーという職業はひとつの素材にこだわることなく、必要に応じて適切なマテリアルを選択するもの、と私はイメージしていた。土を素材として使い続けるとなると、それは陶芸家とはなにが異なるのか。

おそらく、キーとなるのは「量産」。

陶業地では一品制作の伝統やオブジェを主とする前衛の陶芸家が美術家として遇されるのに対し、量産を旨とするデザイナーは安価に大量に生産されるせいか、軽視されている。
井上隆生「栄木正敏・自己主張する産地型デザイナー」『現代の眼』585号、4頁。

しかし、他方で栄木氏が制作活動を行ってきた瀬戸には、古くから多数の量産陶磁器メーカーが生産を行ってきた。それとは何が異なるのか、といえば、やはりデザインなのだ。

当時、瀬戸では和食器のデザインは伝統デザインの模倣アレンジに価値があり、洋食器やノベルティは欧米貿易商の持ち込むデザインで事足りていて、デザインとしての「独立」はなかった。……五百も陶磁器工場が林立しているのに陶磁器デザイナーもデザインを望む工場も皆無の状態であった。
栄木正敏「私の陶磁器デザインと『三つのびっくり』」『現代の眼』585号、2頁。

千葉県出身の栄木氏は、窯業家の家に育ったわけではなく、また最初から陶磁器の生産に関わろうと考えていたわけでもない。デザイン好きであった高校生のころ、偶々日本橋三越で森正洋氏の土瓶に出会ったのが、陶磁器デザインとの関わりの最初であるという。

……高校生でも買えるこんな格好いいものが自分でもいつか作ってみたいと思うようになったのである。
栄木正敏「私の陶磁器デザインと『三つのびっくり』」『現代の眼』585号、2頁。

陶芸家を目指していたのではない。だれでも手に入れることができる、日常の器づくりを目指していたのだ。

武蔵野美術短期大学で学んだのち、1966年に瀬戸で働き始める。

私がデザインを始めたころには、デザイン依頼は皆無であり、瀬戸の自宅工房で量産の為の提案試作実験ばかりであった。
栄木正敏「私の陶磁器デザインと『三つのびっくり』」『現代の眼』585号、3頁。

栄木氏がすごいのは、こうした状況の中で、杉浦豊和氏らとともに自ら企画・生産・販売のための会社=セラミック・ジャパンを設立(1973年)したことにある。デザインし、製造し、販売する。これまでにない道筋を作り上げたのだ。そしてさらにすばらしいことに、この会社はさまざまなデザイナーとコラボレーションを行い、多くの作品を世に送り出しているのだ。


ただ、pdwebの記事でちょっと意外だったのは輸出に関すること。

--これまでの製品は輸出はされていたのですか。

大橋:いや、外国で売ることはまったく考えていませんでした。以来ほとんど貿易は行っていません。興味を持たれた外国のショップの方が来られて少しお分けすることはありますけど、ビジネスとしては考えたことはなかったです。

--今に至るまでですか。

大橋:ええ。現在では少しずつありますけどね。実績はまだ少ないですけれども、そういうものも大事かなとは思っています。


* * *

『栄木正敏のセラミック・デザイン - リズム&ウェーブ』展覧会図録
東京国立近代美術館、2011年1月、17頁。

『栄木正敏のセラミック・デザイン - リズム&ウェーブ』展覧会図録
東京国立近代美術館、2011年1月、48頁。

『栄木正敏のセラミック・デザイン - リズム&ウェーブ』展覧会図録
東京国立近代美術館、2011年1月、30頁。

* * *

書き初めで「近代美術館」とは、渋い中学二年生。


| kichijoji | jan. 2011 |

吉祥寺にて。

2 件のコメント:

  1. ブログに私の記事が掲載されているのを発見。すばらしい分析力のある文で感動しました。ありがとう。東近美での個展から2年経ち、まさか私でもあんな立派なところで展示させてもらえたことが今でも夢のように思っている田舎のデザイン思考の陶器つくりです。
    そしてこのような論説を書いてる人はどのような方なのでしょうか。広い意味陶芸の分野ですがブログ文のように型と量産思考です。そして生活、社会がプラスそしてデザイナーの個が自然に出やすい分野と思います。50年以上前の高校生のころから憧れていた森正洋さんは愛知県立芸大でいっしょの研究室でとても親しくさせていただきました。
    今後あなた様のブログ読ませていただきます。

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  2. 栄木先生
    このようなウェブログにコメントをありがとうございます。
    いわゆる陶芸家は作品や名前で注目されることが多いと思いますが、量産陶器に焦点が当たることはなかなかないと思います。
    しかし、そういったものこそ、私たちの身の回りの生活、日常を豊かにしてくれるものと思います。その意味で、東近美での展覧会はとてもすばらしいものでした。たしか、石膏型なども展示されていたと記憶しています。
    最近は展覧会については別のところに書いているものですから、このウェブログで取り上げる機会は少ないと思いますが、当ウェブログも引き続きご笑覧いただければ幸いです。

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