2011年2月18日金曜日

サントリー美術館:マイセン磁器の300年




日独交流150周年記念
国立マイセン磁器美術館所蔵 マイセン磁器の300年
サントリー美術館
2011年1月8日(土)~3月6日(日)

1710年にアウグスト強王がマイセンに磁器工場の設立を宣言してから300年。昨年秋、大倉集古館でやはりマイセン展がありました[2010年10月2日〜12月19日]。サントリー美術館でのマイセン展は何が違うのか。

① 前者が国内所蔵家の作品を中心にしていた(図録による)のに対して、今回の展覧会はドイツ国立マイセン磁器美術館所蔵の作品によるものである。 ② 前者がほぼ18世紀の作品であったのに対し、こちらは現代まで300年の歴史を振り返る展覧会であること。 ③ 前者が小品中心であったのに対し、こちらには大物が出品されていること。 ④ こちらの図録にはドイツの研究者による解説が掲載されていること。

こうして書き出してみると大倉集古館(4月23日から京都・細見美術館に巡回)での展覧会がやや見劣りする印象がありますが、けっしてそんなことはありません。サントリー美術館の展覧会は300年の歴史を辿るということで、個々の作品の紹介は限定的。これに対して、大倉集古館での展覧会では、シノワズリ、柿右衛門写しなどの優品多数をじっくり見ることができました。ようするに、どちらも見るべき展覧会です。

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大物は、例えばこんな感じ(↓)。
J・J・ケンドラー(Johann Joachim Kaendler, 1706-1775)による「アオサギ(1732年)」。高さ88 cmです。


「メナージュリ動物彫刻、アオサギ」
『マイセン磁器の300年』展覧会図録、NHKプロモーション、2011年、65頁。

ケンドラーが制作を望みながら、資金不足等で実現されなかったアウグストIII世の騎馬像の頭部(↓)。これだけで高さ76 cm。


「アウグスト3世騎馬像の頭部」
『マイセン磁器の300年』展覧会図録、NHKプロモーション、2011年、66頁。

下の写真は、頭部がその一部となるはずであった騎馬像の雛形。頭だけで76 cmということは、完成していたとしたらどれほど巨大な象になっていたのでしょう。雛形は騎馬部分だけですが、出品されています。


「アウグスト3世騎馬像雛形」
『マイセン磁器の300年』展覧会図録、NHKプロモーション、2011年、158頁。

スワン・セルヴィス(↓)。原型は1740年頃に作られた合計2000点に上るセルヴィス。出品されているのは後世に同じ型から作られたもの。下のマスタード用ピッチャーは2004年の制作だそうです。このように、この展覧会には、原型の制作年代は古いものの、その再制作(?)作品が多く見られます。上のアウグストIIIの頭部も、展示されているものは1922年の制作です。


「スワン・セルヴィス、マスタード用ピッチャー」
『マイセン磁器の300年』展覧会図録、NHKプロモーション、2011年、75頁。

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先にも書きましたとおり、18世紀のマイセンはよく見るのですが、19世紀以降の作品を目にする機会はありませんでした。なかなか面白いものがいくつもあります。

「マイセンのバラ 喫茶セルヴィス」は、「スワン・セルヴィス」とはうってかわってシンプルなボディに、やはりシンプルな薔薇の絵付けがなされています。原型は1760年頃ですが、製造は1830〜40年。ここでのキーワードは「ビーダーマイヤー様式」。解説によると、

1718年〜1748年にかけて裕福な中産階級のあいだに広がった生活様式ビーダーマイヤーは、堅実勤勉で家族や友人との絆を大切にする市民の価値観を反映した清楚で親しみやすい意匠を生み、あるいは一組のセルヴィス(セット)を1客ずつ何年もかけて集める習慣など、新たな磁器文化を育んだ。
「新古典主義とビーダーマイヤー」
『マイセン磁器の300年』展覧会図録、NHKプロモーション、2011年、90頁。

どれほどの価格で買うことができたのかは分からないのですが、型や絵付けの工数は「スワン・セルヴィス」よりずっと少なく、おそらくそれまでとは異なったターゲットの人びとにも手に届くような製品だったのでしょう。「一組のセルヴィス(セット)を1客ずつ何年もかけて集める習慣」がこの時期に登場したということも初めて知りました。アメリカにおける割賦販売の普及と同様、少ない予算で収集を始めることができる、そういうマーケットの登場があったということなのですね。


「マイセンのバラ 喫茶セルヴィス」
『マイセン磁器の300年』展覧会図録、NHKプロモーション、2011年、95頁。

下の裸婦画(19世紀前半)は、図録で見る限りただの絵にしか見えませんが、実物をみると感動します。いま流行の3Dです(笑)。
着彩された陶板を光を透かしてみるものなのですが、平面に絵が描かれているのではないのです。陶板そのものが浅浮彫りになっており、その上に着彩されているのです。浅浮彫りが作り出す陰影と、着彩による色彩と陰影の組み合わせ。透明であることが前提ですので、重ね塗りはできません。いったいどうやって仕上がりを予想しながら色を置いてゆくのか、見当もつきません。しかも、磁器の絵の具は焼成前と後とで色が変化します。その変化も想定しながら描かなければならないわけです。マイセン作品としては少々下手物っぽいのですが、制作にかかる技術は相当なものだと思われます。


「陶板画 横たわる若い女性」
『マイセン磁器の300年』展覧会図録、NHKプロモーション、2011年、96頁。

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そして20世紀。アール・ヌーボーもあれば、アール・デコもあります。私の好みはデコ。マックス・エッサー(1885-1945)による造形はすばらしい。「カワウソ」の原型は1926年頃。


「カワウソ」
『マイセン磁器の300年』展覧会図録、NHKプロモーション、2011年、110頁。

同じくマックス・エッサーの「アフリカ象の燭台」は、1924年頃。カワウソのシンプルでありながら生きいきとした造形も、象の燭台の金彩の控えめな使いかたも美しい。


「アフリカ象の大燭台」
『マイセン磁器の300年』展覧会図録、NHKプロモーション、2011年、111頁。

カワウソは高さ43 cm、燭台は高さ70 cm。

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そして会場には20世紀後半にさまざまな芸術家とコラボレーションした作品も出品されています。マイセンが、伝統的な技術を守りながらも、変化し続けている磁器製作所であることがよくわかる展覧会です。

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