2013年6月24日月曜日

依而如件[よつてくだんのごとし]




きらず やかずに 根本的に のんでなをるや 家傳藥

岡山市磨屋町南詰
肛門藥商會

『読売新聞』1925年(大正14年)3月23日。



家傳薬を誇るグロテスクの商標

「のんで癒る痔の薬」と銘打つて手廣く販路をひろげてゐる肛門藥商會(岡山市磨屋町四二)は登録商標に「顔は人間で身體は牛」の図に「如件」の二字を入れてゐることに依つて世に知られてゐる。
このマークの由來を探求してみると秦の始皇帝の時代にこの圖の如き奇形児の生まれたことがあつたが一週間あまりで死んでしまつたと傳へられてゐる。「件[くだん]」は卽ち牛の子でであり、證書に認める「依而如件[よつてくだんのごとし]」の意味は「言ふた事を違へぬ」と解釋されてゐるところから同商會では「効能書に嘘は言はぬ」といふ意味からこれをマークに選んだのだといふ。現在全國各地に特約店三百餘を有し、盛大に営業を續けてゐる。

『読売新聞』1930年(昭和5年)8月21日、朝刊6頁。


肛門藥商會。
会社名もシンボル・キャラクターも強烈ですね。
わたくし、この広告を見るまで、[くだん]の存在を知りませんでした。

件[くだん]については以下の文献に詳しい。
とりみき「くだんのアレ」(『事件の地平線』筑摩書房、1998年所収)。
「くだん、ミノタウロス、牛妖伝説」(『幻想文学』56号、1999年)。

* * *

以下、「肛門藥商會」の広告。



『大阪朝日新聞』1923年(大正12年)9月11日。


上の広告は関東大震災の直後のものですが、大阪の新聞広告は平常運転。



『読売新聞』1925年(大正14年)3月23日。




『大阪朝日新聞』1925年(大正14年)7月17日。




『東京朝日新聞』1926年(大正15年)1月28日。




『東京朝日新聞』1926年(大正15年)1月28日。


切らず やかずに 事業をしつつ 呑でなをるよ 家傳藥





『読売新聞』1930年(昭和5年)9月4日。

私しや 備前の岡山生まれ ぢびゑ 病氣は 苦にはせぬ

切らず、やかずに 仕事もやめず 呑んでぢなをる此の藥



* * *

201307
大正10年、ウラジオストックで「件」が生まれた、
という記事がありましたので追加。




牛と人間の混血兒と謂れる『件』が浦鹽で産る 屠殺した牛の胎内から

【敦賀特電】浦鹽市外二番河市立屠牛場で去る二日屠殺した牝牛の胎内から半身人間半身小牛の怪男子生れ目下牛乳で飼養してゐる、毎日見物人山の如くであると

牛の畸形兒で人間に似る

混血兒杯とは絶對にない
獸疫調査所近藤技師談

右に就て獸疫調査所近藤技師は語る『人間と牛の混血兒といふやうなことは絶對に無い ただ牛には色々の畸形兒があるから一見人間に似た様なものもあるがそれは唯似てゐるといふ丈の事で決して人間の混血兒といふやうな事は無い 人間と牛との間に如何なる關係があつても絶對に混血兒は出來得ぬ』

『読売新聞』1921年(大正10年)10月15日。

4 件のコメント:

  1. 『読売新聞』1930年(昭和5年)9月4日付の狂歌、
    一首めの初句は「私しや」で良いと思います。
    「志」は漢字ではなく仮名のつもりで書いているので、
    このような場合は「し」と翻刻しろと教わりました。
    それから二首めの下の句「呑んでなをる此の藥」は脱落、
    「呑んでぢなをる此の藥」ですね。

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  2. magicanaさん、おはようございます。
    ご指摘ありがとうございます。直しました。
    明治期の活字であっても初期のものは読めない字もあったり、もちろん手書きはお手上げで、どこかで古文書の読み方講座でも通おうかと思っている今日この頃です。

    magicanaさんは「くだん」をご存じでしたか?
    内田百閒や小松左京の小説にも出てくるというのに、今までまったく知りませんでした。下の蠅取り器の広告を見ていたときに、たまたま見つけて、これはなんだ、と。
    西日本では比較的知られているらしいですね。

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  3. 私の高校時代は昭和末年ですが、ところは六甲の麓、当時、六甲山に出没する「牛女」という妖怪を、同級生みんなが知っていました。もう一段落付いた頃で、みんな騒がず普通に知っているという状況でした。
    その後しばらくして、雑誌に取り上げられたと記憶します。もうこっちは冷めていて、TVの取材もあったのですが「何を今更‥‥」といった感じでした。

    ……今思うと、これって「件」の後継者(?)じゃないか? と。
    さすがに「くだん」では通じなくなって、分かりやすい「牛女」というネーミングになったんじゃなかろうか、と。‥‥違うかも知れませんが。

    そんなわけで、関西在住時には全く知りませんでした。
    東京に出て来てから、小松左京の「くだんの母」を読んで
    こんなのがいたのか、と思った次第です。
    「くだん」自体は「ぢ」とは無関係ですよね?
    それが昭和初年に「ぢ」絡みで全国区になっていたとは!
    広告意匠の妖怪資料としての価値も検討に値するかもそれませんね。

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  4. magicanaさん、おはようございます。レスが遅くなりました。
    「牛女」の噂ですか。まさしく小松左京の「くだんのはは」ですね。
    私の方ではそのころ(もう少し前か)「口裂け女」でした。

    ちょっと調べただけの範囲ですが、牛から生まれるのは頭が人間で身体が牛。人間から生まれるのは頭が牛で身体が人間というパターンのようですね。身体はその親に属し、畸形として頭の部分が異なると。

    肛門薬商会の広告は、とりみきさんの本にも、幻想文学の特集にも出ていませんでしたので、「発見」かもしれません(笑)。
    ご指摘の通り、「件」と「ぢ」は無関係ですね。「依而如件」の意味を込めたと。

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