2010年6月7日月曜日

社会心理を読むと30年のデザインがわかる?

BRUTUS 30周年特集の中の「デザイン」(40-43頁)。
あ、このエントリ・タイトルの「?」は本誌のサブタイトルについているもので、私の疑問形じゃありません。


『BRUTUS』2010年6月1日号、「ブルータス30周年特集 ポップカルチャーの教科書」

執筆は柳本浩市氏。「最初の見開きでは年表と代表的プロダクトの紹介。次の見開きでは時代とデザインの流れについてのテキスト。


キー・フレーズのメモランダム。

・時代は繰り返す。
・デザインを含め多くの流行はそういった社会状況とその場におかれている人々の潜在的なニーズから求められ、生み出される。
・同じような社会状況になった時、人々が求めるものは昔も今も変わらない。
・環境は心理に影響し心理は流行やモノを生む
・一見関連性がないように見える経済や社会情勢などが人間の心理に影響し、その心理がモノを生み出す起動力になっていたり、潜在的な心理欲求を満たすために流行が生まれたりしている……
・すべての現象がそれを生み出す人々の心理から必然的に起こるのだ。

「経済」はミクロ的にビジネスの側面からデザインを直接規定するという視点ではなく、「大衆の心理に影響する」ことでマクロ的、間接的にデザインに影響する、というのがここでの柳本氏の考えと思われる。

* * *

紹介されている「デザイン」は、主にコンシューマー・プロダクト。鉄道車両や空間演出が一部含まれる。最初の見開きに写真で紹介されている23点中、座るためのプロダクトが9点。ほかに複数取り上げられている用途を同じくするプロダクトはない。やはり椅子はデザインの王道。

そして「デザイナー」は、日本人と、日本メーカー向けにデザインを行った一部外国人デザイナー。日本人デザイナーの仕事は、必ずしも日本国内向けとは限らない。なので、主題は日本のデザインシーンと、その影響下に仕事をした人々、ということになる。

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以下、感想のメモランダム。

デザインする人、モノをつくる人、売る人、買う人、使う人。
社会心理はどのような経路を通じてモノに転化するのだろう。


『BRUTUS』2010年6月1日号、40頁。

1980年から2010年までの30年をプロットした40~41頁の年表の最初にあげられているプロダクトは、喜多俊之氏のWINK(ウィンク・チェア)である。たしかにWINKの発表は1980年である。しかし、喜多氏によれば、WINKのアイデアは1976年。開発に3年を要し、完成したのは1979年だったそうだ。
脚注に「年行表記は製品の発売年、運用開始年などを表しています」とある。


2009年に開催された「made in Cassina」展関連イベントの講演で喜多氏が語っていたが、カッシーナのディレクターの「これは70年代的ではない」という判断で、79年には完成していたWIKNの発表が1980年になったという。

1976年に着想し、1979年に完成していたプロダクトを、発表年で80年代の文脈におくことははたして妥当なのか、というのはもちろん単なる揚げ足取りで、本質ではない。私が感じたのは、WINKに現れた80年代の「社会心理」は、誰のものであったのだろうか、という疑問である。

いったい社会心理は「誰」を媒介としてプロダクトのデザインに現れるのだろうか。おそらくWINKにおいては喜多氏以上に「これは70年代的ではない」という判断をしたカッシーナ社の果たした役割は大きい。「made in Cassina」展のギャラリーツアーでも、完成していてもカッシーナ的ではないという判断でお蔵入りしたプロダクトも多数あるとの解説があった。どのようなデザインをいつマーケットに出すのか、という点でカッシーナ社は明確な指針を持っている。

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「喜多俊之 カッシーナ社[ウィンク・チェア]1979」
『世界デザイン史』美術出版社、1994年、172頁より。

興味深いことに、『世界デザイン史』ではWINKを「日本の現代デザイン:60・70年代のインダストリアルデザイン」(172〜173頁)という文脈で紹介している。

この違いはなんであろうか。

デザイナーを中心に考えれば、とうぜん着想を得た70年代の作品。他方でプロダクト中心に考えれば、それが社会に受け入れられた80年代の文脈になる、ということでよいだろうか。

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