2010年6月11日金曜日

世界を変えるデザイン展:ケーススタディの説得力

途上国における諸問題をデザインによって解決しようとする試みを紹介する「世界を変えるデザイン展」。AXIS会場も見てきました。



展覧会という視点で、AXIS会場はとても良かった。小割をランダムに組み合わせて空間を仕切った会場空間もなかなかです。



デザインハブ会場とは何が違うのか。

デザインハブ会場の展示は演繹的。データによって問題の所在を提示し、その問題を解決しうるプロダクトをセレクトする。

対してアクシス会場の展示は帰納的。個別の事例を取り上げて、それがどのような問題を背景に現れたのか、どのように解決しようとしているのかを示す。パネルやビデオによって個々のプロダクトの開発経緯や、それらが使用されるコンテクストが示されています。つまり、問題が何であり、それをどのような方法で解決しようとしているのか、ということがとても分かりやすかったのです。私は後者の方法が説得力があると感じました。なにしろ問題は現場で起きているのですから。



だいたい「デザインは問題を解決しうるか」という点において、私はかなり楽観的・肯定的なのですが、それが「ビジネスとして成立し、継続性を持ちうるか」に関しては限定的です。そんな現実主義者の私にとって、最も興味深かったのはひとつのビジネスモデルとして問題に取り組んでいるフィリップスのプロジェクトです。

展示解説によれば、フィリップス社は

・年収3000ドル以上をターゲットとする。
・テスト量産まで開発に4年をかけ、ビジネス性を判断する。
・4年目までに中断するプロジェクトもある。
・ビジネスとして成立する=利益を出すまでに10年程度の期間を見積もっている。
・プロジェクトを直接の経済的利益だけではなく、先駆的企業としてのブランディングとしても位置づけている。
・またプロジェクトによって構築したネットワークから長期的な利益が得られることを期待している。

チャリティ的なプロジェクトがただ前に進むことしか考えていないようにみえるのに対して、事業の中断も視野に含めたモデルは、トータルな意味での継続性という点でひじょうに評価できるのではないでしょうか。



同様に、「世界の最貧困層がもっとも必要としているのは、金を稼ぐ方法」とするキック・スタート・プロジェクトも、持続性の点で注目されます。お腹を空かせた人々にパンを配る、というだけではなにも解決しないでしょうから。

* * *

この展覧会、そして紹介されている個々のプロジェクトの取り組みはすばらしいと思う一方で、一部の製品に対しては複雑な印象があります。

たとえば義足。比較的所得の低い人々にも入手可能な価格。現地の人々が自らつくることができるようなシステムも考えられています。しかし、なぜ彼らは手足を失ったのかといえば、「途上国では地雷によって毎年1万5000〜2万人が手足を失っている」。つまり、地雷を売り、それによって手足を失った人々に義足を売るシステム。
もちろん、地雷を売る人と義足を売る人は別ですが。

注射針が再利用されないように回収するシステム。ビニル袋を回収しカバンなどをつくるプロジェクト。こうした事例からは、いったい問題の根幹はどこにあるのか、問題を生じさせているのは誰なのか、現地の人々から見ればマッチポンプになっていないか、という点も考えなければと思うのです。
注射器の再利用そのものを防ごうとする川崎和男氏の試み→リンク
問題をどこに設定するかによって、デザインによる解決も変わりうる、ということです。

何にせよ、さまざまな問題の存在を知らしめ、考える機会を与えてくれた展覧会企画者本村拓人氏に感謝です。両会場とも、若い人たちが多数訪れ、熱心に見ていたのが印象的でした。

* * *

追記

問題の解決方法への評価には、時間軸を考慮に入れる必要があること。
注射針を回収するプロダクトは、短期的な問題解決方法の提示。川崎和男氏のPKDプロジェクトは、システムそのものを変えようとするもっと長期的な試み。義足についても、その他のプロジェクトについても、同様に評価を考える必要がある。

たとえば、お腹を空かせた人に対して私たちに何ができるか。

・パンを与える。
・パンを買うためのお金を与える。
・パンを作るための技術と道具を与える。
・パンを買うためのお金を稼ぐ術を与える。
・小麦を育てる技術と道具を与える。
・小麦を粉に挽くための技術と道具を与える。
・小麦を育て、粉に挽き、かまどを築き、パンを焼き上げる方法を自分たちで工夫できるような教育を与える。

目の前にいる人々が餓死する前に行動しなければならない。
子供達が大人になる前に教育を与えなければならない。

問題の解決を短期に設定するか、長期に設定するかによって、するべきことが変わる。
とうぜん、デザインがするべきことも変わる。

私はこれを考えていなかったので、短期的な視野のプロダクトにもやもやとした印象を抱いていたように思う。各々のプロダクト/プロジェクトが目標とする時間軸上の着地点をマッピングしてみると良いかも知れない。

2 件のコメント:

  1. 展覧会に御こし頂き本当にありがとうございました!!
    今回展示させていただきました製品はまだまだ開発途上のものが多く
    僕は逆にそこにまだまだ関われる気がすると本気で考えています。
    勿論、日本発の製品にも今後期待したいものです。これからもこの領域のプロダクト・デザインを社会に蔓延る多くの課題を伝えるメディアと捉えながらより多くのプロダクトを皆さんと共有したいと思います。

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  2. 木村様
    このような備忘録にコメントをありがとうございました。
    多様な問題の存在を知ることができた、とてもよい展覧会でした。
    なによりも木村さんの企画・行動力がすばらしいと思います。
    これからの活動も期待しております。

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