2010年6月16日水曜日

日本カメラ博物館:カメラとデザイン展

日本カメラ博物館:カメラとデザイン展

日本カメラ博物館 特別展
「カメラとデザイン」
2010年2月16日(火)〜6月20日(日)
http://www.jcii-cameramuseum.jp/


展示としては、日本カメラ博物館の貴重なコレクションを、通常の編年展示ではなく、デザイナー別に並べ替えたという感じでしょうか。こう書いてしまうと簡単ですが、とくにインハウスのデザイナーが手掛けた仕事をまとめてみる機会は稀ですし、一部のプロダクトはポスターやマニュアル、パッケージとともに見ることができる貴重な機会です。

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私が好きなカメラは田中昇氏デザインの「キヤノンオートボーイジェット」(1990)。

オートボーイジェット
CANON CAMERA MUSEUMより

発売されたとき欲しいと思いましたが、斬新すぎて手が出せませんでした(泣)。おそらく今回の展覧会の企画とは別だと思いますが、博物館には電池が入って動作するボディがあり、じっさいに触ってみることができます。

また、キヤノンのサイトでは開発ストーリーなどを見ることができます(知らなかった!)。


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ウォルター・ドーウィン・ティーグ、レイモンド・ローウィーらの手掛けたカメラも面白いですが、なによりも興味深かったのは河野鷹思氏デザインの「ラメラ」(1959年)。トランジスタラジオの付いたカメラです。「ジオ」+「カメラ」=「ラメラ」というわけです。ハイブリッドなプロダクトなので、印象としてはラメラというよりキメラですな。フィルムは16mm。白、黒、赤、緑、青のカラーバリエーションがあったそうです。会場には白と青が展示されています。

河野鷹思:ラメラ
『カメラとデザイン』展覧会図録より。

カメラ部は小さく、見た目はほとんどラジオです。

ソニー、トランジスタラジオ TR-610(1958年)

スピーカーやレンズまわりのデザインから、これ(↑)を思い出しました。似てますよね。

その一方で、センターに配置された円形(TR-610よりも小さく、余白が大きい)は、カメラのレンズを彷彿とさせるデザイン処理にも見えます。

河野鷹思氏はグラフィックの人だと思っていたので、カメラのデザインを手掛けているとは知りませんでした。そして、このカメラをつくったのは、興和光器製作所。現在の興和です。興和というのは、キャベジンコーワ、コルゲンコーワの興和。興和がもともと紡績を中心とする商社で、医薬品部門は一部に過ぎないとはこれまた知りませんでした。河野氏はラメラ以外にも、興和の「カロ」というカメラシリーズおよびそのポスターなどを手掛けたそうです。

河野鷹思:kallo35e
KALLO 35 E
『カメラとデザイン』展覧会図録より。

当時の新聞広告がないかと調べてみたのですが、カロのものは見つかりましたが、ラメラはありませんでした。ひまがあったらカメラ雑誌をあたってみましょう。

ラメラについて、『興和百年史』(1994年)には次のように書かれています。

エレクトロニクス事業への参入
昭和三十年代に入ると、トランジスタラジオを中心とする半導体の製造・応用技術が急速な進歩を遂げた。……
三十四年に入ると、前述の「マイクロコーダー」、ラジオとカメラを一体に収めた「ラメラ」、放送用ラインエアモニター「LA-8002P」などを完成させ、市販開始した。中でもマイクロコーダーとラメラは、この年の五月開催された東京国際見本市に出品したところ、終始黒山の人だかりとなるほどの人気を呼んだ。
……ラメラは[興和の]光学部と電機部の技術を組み合わせた、まさに当社独特のアイデア商品であった。(ただし、……ラメラも、行楽の際に聴きながら写すという使われ方を想定したのに、そうしたユーザーニーズを喚起できず、営業的には失敗に終わった。)

『興和百年史』、395〜396頁。

興和は昭和30年代に、トランジスタとそれを応用した製品の開発に参入。ラメラはその技術を応用した製品なので、おそらくラジオが主でカメラが従の製品だったのでしょう。なお、社史には「当社独自のアイデア商品」とありますが、真空管ラジオではありますが同様の製品がすでに1948年にアメリカでつくられているようですね。詳細は次のリンクで。

スタッフ便り : ラジオ付カメラ「ラメラ」に再会〜日本カメラ博物館にて〜
(河野鷹思氏が開設したギャラリー「gallery5610」のスタッフブログ)

興和は1978年にカメラ製造からは撤退していますが、現在でも光学器機を製造・販売しています。


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追記20100617

なんとこのラメラ、カメラ部を本体から取り出すことができたらしいですよ。しかも、カメラ単体で使用可能(ベル16という名称)。とうぜんラジオ部分も単体で動作。


ラジオとひとつにする意味がないような……。

しかし、上のリンクにあるようなカメラマニア諸氏の探求心にはほんとうに敬服いたします。ただ興和の社史にあたった方はいらっしゃらないようなので、通りすがりの私も少しはリソースの充実に貢献できたかも知れません(笑)。
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追記20100626

1959年から60年にかけて『アサヒカメラ』に掲載されたラメラの記事と広告をクリップしました。


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読売新聞の広告を検索していて「ラメラ」の代わりに見つけたのが、ナショナル「ラジカメ」(!)。「ラジオ」+「カメラ」=「ラジカメ」。


『読売新聞』、1979年12月23日、朝刊16頁。

こちらの商品は有名なようですね(これも知らなかった!)。ラメラよりいいネーミングだと思います、ラジカメ。ラメラから20年後の1979年の発売です。


Youtubeには発売当時のCMもアップロードされています。



カメラ付きケータイ、ワンセグ付きケータイ、ビデオも撮れるケータイ、ビデオも撮れるiPod nano……これらは一応の成功を収めているように思われますが、ラジオ付きカメラが普及しなかったのはなぜでしょう。

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