2009年10月14日水曜日

平塚市美術館:「カー・デザインの歴史」展:美術館でデザインを見るということ



カー・デザインの歴史 -NISSAN 情熱と機能の美-
2009年10月3日(土)~11月29日(日)

自動車は現代の基幹産業であり、われわれの生活必需品として身近な存在といえるでしょう。しかしながら、まず最初に目に入るそのデザインについてひもといた展覧会はこれまであまり見られませんでした。本展では日産自動車株式会社の特別協力をいただき、公立美術館で初めて、ひとつの国産メーカ―のデザインを年代を追って俯瞰し、欧米に学んでいた黎明期から日本発のデザインを世界に発信する現代に至るまでの変遷を、スカイライン、フェアレディZといった歴代の名車展示に加え、普段目にすることのできないクレイモデル、スケールモデル、デザイン画とあわせて紹介します。

http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/2009205.htm

本展は、国産メーカーのデザインを年代を追って俯瞰し、そこに戦後日本のモノ作り、デザインをひもとき考察する公立美術館で初めての展覧会です。
(展覧会図録より)

車のスタイリングについてはまったく詳しくないし、往年の名車と呼ばれるものを見てもちっとも心ときめかない私だが、とても興味深い展覧会であった。

上に引用した紹介文にもあるとおり、展示は

1)カースタイリングの変遷
2)デザイン技法の変遷
3)同時代の工業デザイン

から構成されている。



このうち、デザイン技法の変遷にいちばん重きがおかれていたように思うし、印象的であった。スタイリングの変遷に興味があるならば、メーカーのミュージアムに行くほうがよいだろう。実車はロビーに7台展示されている。それ以外は写真と模型、クレイモデルである。







最近は美術館でプロダクト・デザインに関する展覧会が開かれることも多くなったように思う。2001年に東京都美術館で開催された「イームズ」展あたりがその転換点であろうか。

ただ、まだうまく考えがまとまらないのだが、「美術館」という場で、「誰」に「何」を見せるのか、という点が、これまで見てきた展覧会では曖昧であったように思われる。

たとえば、東京国立近代美術館では柳宗理や森正洋、クリストファー・ドレッサーの展示が行われているが、その視点はどちらかというと「工芸」へのそれという印象であった。また、全般的に「使うもの」というよりは「鑑賞するもの」という評価の視点が感じられる。

デザインは美醜によって評価されるのではなく、問題解決への貢献という点から評価されるべきだと私は思うのだ。美術館では何を見せるべきなのか。デザインを鑑賞するとはどういう行為なのか。美術品と同様の視点からデザインを見るべきなのか。美術館におけるデザイン展覧会の視点はとても気になる。

今回の展覧会は、単純に過去のカー・スタイリングを「鑑賞する」展覧会ではなく、スタイリングの技術面での変遷とその影響を追っているという点で、美術館としては多分に異色の展示である。そこには日産の全面的な協力、『カースタイリング』誌編集長の協力(寄稿)が大いに影響していよう。









物足りない部分を指摘するとすれば、逆にデザインのテクニカルな側面ばかりが強調され、デザインへの批評が欠けていた点にある。どのようなデザインでも有り得るなかで、無数のスケッチが描かれたなかで、なぜそれが製品になり、街を走ったのか。じつはそれこそが「デザイン・プロセス」の本質だと思うのだが。







同時代の工業デザインについては、コロンビアのレコードプレーヤ、ソニーのトランジスタラジオやポータブルテレビ、ファミコン、iPod等が展示されていたが、展覧会の流れからすると付け足しの印象である。





特筆すべきは、この展覧会、撮影自由!であること。



メモ
デザイン史学研究会のシンポジウム(2005年):
第3回 シンポジウム「日本におけるデザインのミュージアム――現状と未来」
http://wwwsoc.nii.ac.jp/dhwj/jp/sympo/index.html

「公立美術館における収集品や企画展示の選定に大きな決定権を持つのは、学芸員であり、……学芸員がデザインをどのように定義しているのかについて検証すべきであろう。学芸員の経歴はさまざまであるが、日本の公立美術館に勤務する学芸員のおそらく半数以上は大学院で美術史を学んだ人物である。」

「極論を言えば、公立美術館の多くの学芸員にとって、デザインはグラフィック・デザインとほぼ同義であるとも考えられるのである。」

「公立美術館でデザイン展としてみなされているものは、前述のグラフィック・デザイン展に加えて、富本[憲吉]展やクリストファー・ドレッサー展(2002、宇都宮美術館他)等、デザインと工芸の両分野を横断するような展覧会であるともいえる。他のデザイン活動、例えば現代のインダストリアル・デザインを扱うこと等は切り捨てられているといってよい。」

橋本啓子「日本の公立美術館におけるデザイン展について」『デザイン史学』第四号、111-116頁(2006年)

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