戸板関子:家庭顧問
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1922年9月18日の読売新聞のコラムは、その回答にとてもインパクトがあったのだが、どうも最初から、あるいはすべてにおいてあの調子であったわけではないようだ(あたりまえか)。
コラムをいくつかピックアップして読んでみたのだが、戸板先生の下にはじつにさまざまな相談事、たずね事が寄せられていて、いずれにも先生は真摯に回答を寄せられているのである。
「家庭顧問」の記念すべき第一回(番号は付いていないが)は、1920年(大正9年)5月5日であった。「よみうり婦人欄」というページの連載コラムである。
『読売新聞』1922年9月18日朝刊04面、家庭顧問:戸板關子
(記者より)今度、三田高等女學校校長、戸板裁縫女學校長戸板關子女史にお願ひして家庭生活の常識について顧問になつて頂きました。日常の事柄に關して續續御質問をお寄せ下さい。
とあり、質問内容は、
【問】慶弔時の水引の結び方の注意をお教へ下さいませ(文子)
【問】私の家は硝子窓が沢山ありますが、簡便な清め方を知りたいと存じます(愛讀者)
【問】近く新築の家に移りますが柱や縁側に光沢の出し方をお教へ下さい(清子)
とまあ、家事や料理、裁縫を教える女学校の先生向きにありそうな相談事で、戸板先生もとても丁寧に答えているのである(画像参照)。
その後も
1920年5月9日
【問】煙草盆の進め方は如何するのが本當でせう、近頃他所様へ伺つて注意して見ますが、まちまちの様です、お教示下さい(千枝子)
【問】フォークとナイフの遣ひ方の普通的なのをお教示下さいませ(乙女)
1920年5月16日
【問】暑さに向かひますが、鶏卵の簡單な見分け方をお教示下さいませ(君子)
【問】お祝ひに頂きました鰹節が一二ヵ月では使用致しきれません長く貯へると蟲が付くので困りますが、何とかよい貯蔵法はありますまいか(牛込の主婦)
【問】乳が多く、着物に汚點がついて困りますが、よいしみ抜法をお伺ひ致し度う御座います(乳母)
というように、家庭生活でのさまざまな内容についての質問と回答が掲載されている。
少しばかり可笑しいと思うのは、まったく関係ない複数の質問が一緒に書かれていたりする例である。
1920年5月25日
【問】目上、同等、目下の三者に対する書翰の認[したた]め方及び一般に書翰紙の折り畳方を御高教下さい、同時に、寝具布団の正式なる畳方も御教へ下さい(愛讀生)
1920年8月8日
【問】揮発油の家庭的利用法を可及的廣くお教へ下さい、同時に重寶[ちょうほう]な竈[かまど]および食器入兼用の鼠不入[ねずみいらず]の名稱をお教へ下さい(とみ子)
【答】……鼠入らずでよくわかります外に名稱に付研究するほどの價値ある問題とも思はれません。
質問と回答は現在でもありそうなものも多いのだが、その時代の生活ならではのものも見受けられる。
1920年5月31日
【問】腐敗した御飯の利用法をお教へ下さい(春子)
【答】腐敗にも程度がありますが大抵のものであつたら、能く清水で洗ひ天日に乾し、煎鍋[いりなべ]で煎り別に黒豆を煎つて混ぜ、白砂糖をまぶしておくと、お茶受けにもお子様のお三時[やつ]にもなります
1920年7月26日
【問】冷蔵器を作らせ度いと思ひますが、外気との絶縁物は何が一番有効なのでせう 御教示ください(愛讀者)
【答】冷蔵庫をおつくりになるに外気と絶縁するものはやはり木が一番よろしいでせう、そして隙間の無いやうにする為中に羅紗の布を張るが宜しう御座います、若しご自分のお家でめつたに御移轉などなさらぬ方でしたら、臺所の便宜の場所を三尺許り[ばかり]掘つて、四方と底に煉瓦を積みセメントを塗り蓋は木製にして置きますと氷を入れないでも始終ひやひやとして大変工合が宜しう御座います、……ビールやサイダーはぢかに置いて宜しう御座いますが他の食物は簀の子の臺をつくつて其上に載せて置くが宜しう御座います
1920年12月23日
【問】潔癖症の男ですが消毒殺菌の事をする處がありませうか(執望生)
【答】本所に立派な消毒所があります町名は警視廳の衛生課に問はれるとわかります
1922年10月16日
【問】古新聞の活用法を教へて下さい賣るのは安くていけません
【答】古新聞賣却が安價で惜しく思し召すなら高價になるまで大切に保存なさい、新聞紙は数年たつても紙魚[しみ]はつきません、新聞紙の利用としては包紙が一番適役です
この項つづく。
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