2013年1月4日金曜日

川村清雄ノオト 01

昨秋、江戸東京博物館と目黒区美術館の2館で画家川村清雄の展覧会が開かれました。

正直に告白すると、川村清雄についてはそれまでまったく知識がありませんでした。展覧会を知ったのも行く気になったのも、目黒区美術館での展覧会のポスター・チラシ・図録等のデザインを手がけたのが中野デザイン事務所さんだったから、です。

江戸東京博物館に行ったのは最終日1日前の12月1日、目黒区美術館には最終日の12月16日、というあたりに、当初の私の関心の薄さが見えますね。


江戸東京博物館 開館20周年記念特別展
維新の洋画家 川村清雄

2012年10月8日~12月2日
江戸東京博物館 1階展示室
(静岡県立美術館へ巡回:2013年2月9日〜3月27日)


江戸東京博物館での展示は、川村の出自からその生涯を辿るとともに、代表作が一堂に展示される充実したものでした。綿密な研究の成果です。

しかしながら、またまた正直を申しますと、江戸東京博物館での展覧会にはピンと来ませんでした。川村清雄の作品は油彩なのですが、そのモチーフ、構図の多くは日本画のもの。そればかりか、絵が描かれたカンバスも、木の板や、漆の盆、絹本。「明治期の洋画」として見知ったものとは明らかに異なっています。なぜそんなものを描くのか。それなら日本画で良いではないか、というのが、このときの印象でした。

しかし、目黒区美術館展を見て、少々印象が変わりました。


ここには川村の装幀の仕事が多数出品されておりました。小さな画面、限られた色彩、優れた構成力。俄然、この画家についての興味がかき立てられたのです。

で、川村清雄についてちょっと調べてみると、恋愛とか、遅筆とか、貧窮とか、酒好きみとか……、作品の外でもなかなかに魅力的な人物。そして人物を知るにつれ、川村清雄の作品に対する評価も変わってきました。もちろん、良いほうに、です。

今回の展覧会や、川村清雄の作品、生涯についてはあちらこちらに書かれておりますし、展覧会図録の他に研究書も刊行されておりますので、いまさら私が付け加えるべきことはありません。とくに読み易い伝記としては、林えり子『福澤諭吉を描いた絵師 : 川村清雄伝』(慶応義塾大学出版会、2000年)があります。

ただ、古い新聞の記事を検索してみると、川村清雄の人となりを伝える興味深い記述がいくつか見受けられました。その中には、これまでの文献でも直接に言及されていないものもありました。ですので、そのあたりをアットランダムに書き出しておけば、いずれどなたかの役に立つのではと思うわけです。

ということで、これから数回、川村清雄についてのメモランダムをここに記していきます。

川村清雄略歴

川村清雄の略歴については、目黒区美術館の記述から引用。


川村清雄(1852・嘉永5 ~ 1934・昭和9 年)は、江戸、明治、大正、昭和を生き、明治以降もっとも早い時期に海外で学んだ画家です。徳川家の給費生として津田梅子らとアメリカに留学し、のちに渡ったイタリアではベネチア美術学校で本格的な西洋画を学びます。西洋画の卓越した技術を持ちながら、日本の絵画を研究、絹本に金箔下地に油彩で、歴史や故事などのテーマを描き、その異彩を放つ画風で注目を集めました。勝海舟や小笠原長生などの支援を受けながらも、時代から孤立ししばらく人々の記憶から遠ざかっていました……


その作風は、


(左)《勝海舟江戸城開城図》(1885)、江戸東京博物館蔵
(右)《形見の直垂》(1899以降)、東京国立博物館蔵
いずれも江戸東京博物館に出品。


《梅に雀》(大正〜昭和初期)。目黒区美術館に出品。


《鸚鵡》(大正〜昭和初期)。目黒区美術館に出品。

※ 画像はいずれもチラシから。

参考文献

この年末年始に眼を通した文献を挙げておきます。

木村駿吉『川村清雄 : 稿本作品と其人物』私家本、1926年(川村清雄に取材し、生前刊行された伝記。リンク先は国立国会図書館近代デジタルライブラリー)。
川村清雄「洋画上の閲歴」、伊原青々園、後藤宙外編 『唾玉集』春陽堂、1906年。(川村清雄へのインタビュー。平凡社東洋文庫版(1995)あり。同文は『川村清雄研究』にも再録されています)
和田垣謙三『兎糞録』至誠堂、1913年(リンク先は国立国会図書館近代デジタルライブラリー)。
▼ 和田垣謙三『吐雲録』至誠堂、1914年。
和田垣謙三『意外録』南北社出版部、1918年(リンク先は国立国会図書館近代デジタルライブラリー)。
※ 和田垣謙三については、追って記す予定です。
▼ 関如来「淪落の二大天才 河村清雄と小倉惣次郎」『読売新聞』、1910年(20回連載評論)。

高階秀爾、三輪英夫 編『川村清雄研究』中央公論美術出版、1994年。(優れた研究書。ただし刊行後に明らかになった事実もあるので、江戸博の展覧会図録などと合わせて読む必要があります。)
林えり子『福澤諭吉を描いた絵師 : 川村清雄伝』慶応義塾大学出版会、2000年。(川村清雄の生涯を追った評伝。読みやすい。考証は確りしていると思われます。)
▼ 目黒区美術館『「川村清雄」を知っていますか? : 初公開・加島コレクション』展覧会図録、2005年。
山口晃『ヘンな日本美術史』祥伝社、2012年。(最終章で川村清雄が取り上げられています)
高階絵里加「フランスへ渡った日本 - 川村清雄の 《建国》 について - 」『京都大学人文科学研究所人文学報』2003年12月。(PDFファイルをダウンロードできます)

▼ 江戸東京博物館『維新の洋画家 川村清雄』展覧会図録、2012年。
▼ 目黒区美術館『もうひとつの川村清雄』展覧会図録、2012年。

さらに詳しい文献を知りたい方は、上に挙げた『川村清雄研究』の巻末、および村上敬「川村清雄をより知りたい方のための読書案内」(『維新の洋画家 川村清雄』、212-217頁)をご参照ください。後者には文献の内容についての簡単な紹介も付されていて、とても役に立ちます。

有用な展覧会レビュー

たくさんあるうちの、ほんの一部。

「川村清雄」展と「もうひとつの川村清雄展」 和洋折衷超えた深み :日本経済新聞(2012/10/24付)
『維新の洋画家 川村清雄』展@東京都江戸東京博物館【展覧会紹介】 | コラム・紹介記事(2012年11月28日)

※この稿つづく。随時加筆修正の予定あり。

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