2012年8月13日月曜日

最も新らしい高級職業婦人の養成:
東京女子歯科技工学校




此の廣告ハ一定期間更新が無い電脳日誌に表示されてゐます。


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最も新らしい
高級職業婦人の養成

今までは小學校卒業だけではロクな職業に就けず、高等な専門學も學べなかつたがこんど認可された齒科技工學校は今のうちなら小學卒業者も自由に入學が出來僅か六ヶ月の短期で齒科技工士になり高級で齒科醫院に勤め又は獨立が出來て植民地では齒科醫免状を取る上に便宜もある。何分日本にタツタ一つの公認學校だけに卒業生招聘の申込が諸所から集り各自の希望する地方に赴任する盛況で就職難が全くないから職業に志す婦人に取ては出世の一番近道です
志操堅固な者には苦學便法もあり

『朝日新聞』昭和5年1月28日、7頁。

良いことずくめで、なかなか怪しげな広告。

この学校、確認できただけではありますが、『朝日新聞』紙上には他に2回、広告を出しています。上の広告(昭和5年)よりも早い昭和4年には、文面が同じでイラストの代わりに写真が入った広告がありました。



『朝日新聞』昭和4年(1929年)9月14日、7頁。


なぜ写真を止めてイラストにしたのかしらん。

そして次に広告が見られるのは昭和10年。このときは写真が復活していますが、別の女性です。上の写真の女性よりもちょっと容姿端麗ですね。


『朝日新聞』昭和10年(1935年)3月3日、5頁。

卒業生就職確實なるは本校特色なり
女子 齒科助醫
小學卒業前期●女學卒業期
毎月一回 無試験入學 許可
○本校は齒科助醫竝に齒科技工師養成の公認學校
○本科六ケ月研究科二ケ月齒科技工得業證授与す
○小資本にて獨立開業出來る●招聘申込頗る多し
○苦學夜學宿舎の便あり○産婆看護師に特典あり
尚ほ本校卒業生は朝鮮入齒営業無試験免許申請
の資格あり▼學則ハガキにて申込次第送呈す
東京牛込區北山伏町
電話牛込一九九七番
認可東京女子齒科技工學校

こちらはかなり簡潔な案内文です。

サテ、東京女子歯科技工学校とは、どんな学校だったのでしょうか。
ググってみると、この学校に関する学会報告の抄録がある模様。

下総高次「東京女子歯科技工学校について(日本歯科医史学会第35回(平成19年度)学術大会講演事後抄録))」『日本歯科医史学会会誌』27(3)、161-163頁、2008年。

下総先生の学会報告の内容は、東京女子歯科技工学校発行の『女子技工士養成案内』と『入学者の心得』 の両小冊子についての紹介でした。以下、報告抄録からその一部を抜き書きします。

『入学者の心得』冒頭には、「我が国には、国法によって認可された女子の技工学校は、本校以外に一校もありません従って、本校卒業生以外には、公認された女子技工士も無い訳であります。故に本校卒業生が優良であると否とは、直ちに女子技工士の職業的地位を左右することになります」と書かれているそうです。

教育課程については、「本科前期2ヶ月、本科後期4ヶ月、研究科2ヶ月」。入学時の資格によって、スタート地点が異なっています。すなわち、「年齢、14 歳以上にして、高等小学校以上を卒業したる者又は之と同等以上の学力ありと認むる者は、前期に無試験入学を許す」。そして、「高等女学校を卒業したる者。又は之と同等以上の学力がある者及産婆・看護婦の資格を有する者は後期に無試験を許す」。つまり、小学校卒業でも入学できるが、その場合は高等女学校卒業者よりも2ヵ月多く在籍する必要があるということです。

卒業後は、「卒業試験を合格したる者を卒業とし、卒業證書を授与す、尚ほ其の修業したる技術に対し、資格證明書(歯科技工得業士) の称号を交付す」。

学費は、入学金20円、月謝10円、材料費5円。前納制です。他の学校の資料がないので、これが高いのか安いのか、よく分かりません。材料費は1回のみでしょうか、それとも毎月? すべての課程を履修すると小学校卒業資格で8ヶ月かかりますから、学費は合計100円ということになります(材料費別)。

冊子中には新聞による紹介記事が収録されているそうですが、それによれば「現在80人ばかりの学生がいること、まだ1回も卒業生は出してないが、既に15〜16 人はもう予約済みである」(『報知新聞』昭和4年4月23日)。

下総先生報告からの引用はここまで。

昭和4年というと、『朝日新聞』に最初の広告が掲載された年ですね。その時点で学生は80人と。最長でも1年に満たない課程ですから、まだ卒業生を出していないということはこの年に創立したと考えるのが妥当でしょうか。

この学校がいつごろまであったのかもよく分からないのですが、昭和18年の『読売新聞』に記事が出ています。


紙上親切課
女子齒科技工學校
目下某齒科醫院の助手をしてゐる者、齒科技工士になりたいのですが女子の入學できる技工學校はどこでせう(京橋區・松尾)
【答】牛込区北山伏町一〇に東京女子齒科技工學校があります。

『読売新聞』昭和18年(1943年)7月31日、4頁。


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学費が高いか安いかわからないと書きましたが、歯科技工手の収入などについて書かれた記事がありましたので、合わせて紹介しておきましょう。


小學校だけで出來る職業(24)
むし齒黨を救ふ『技工師』
齒科醫とは別に獨立も出來る

仕事熱心で緻密な神經が必要

…(略)…普通縁故関係を辿つて齒科醫の下に住込むが、最初はお小遣ひ程度で技術の進むに從ひ給料も上つて行く。三年も經てば大體先輩の手傳ひとしては一人前でこの頃月五圓から八圓位
技工として一通りの仕事ができるのは五六年の修養が必要で、大體廿歳頃だが、この頃で月十五圓位。
…(略)…技工師としてどこへ出ても恥ずかしからぬ技術を習得するにはどうしても七、八年はかゝる
収入は勿論技術によつて決定されるが、現在最高百五十圓、普通五、六十圓といふところ最近では技工師を置かない齒科醫を相手として齒科技工所が設立され相當の成績を擧げてゐるから、五百圓位の資金があれば立派に獨立できよう

『読売新聞』昭和12年(1937年)2月21日、夕刊5頁。


どこの世界でも、徒弟修行には五六年から七八年かかるものなのですね。

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