「日本磁器ヨーロッパ輸出350周年記念 パリに咲いた古伊万里の華」展2009年10月10日(土)~12月23日(水)東京都庭園美術館(白金)
今年10月15日は、日本磁器が初めてヨーロッパに向けて公式に輸出されてから350年目に当たります。本展はこれを記念し、ヨーロッパに渡った古伊万里を蒐集した碓井コレクションの中から、選りすぐりの名品を紹介します。
http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/koimari/index.html
展覧会に出品している蒐集家、碓井文夫氏に関する記事が『週刊新潮』に出ていました。以下抜粋。
「欧州で『古伊万里』を収集した『碓井文夫氏』の財力」
……パリ在住の所有者、碓井文夫氏(77)がいう。「95年。パリの蚤の市で色絵花瓶を購入したのがきっかけです。その後は、ロンドンやパリの骨董店を歩いて集めました。代理店を通すと値がつり上がるので、自分で足を運んでいます」
……購入費も相当なものになる。
「不動産の賃貸料や工業技術の特許料などの蓄えでなんとかやり繰りしています。昭和1ケタ生まれなので倹約が身体に染みついてますからねえ。古物商巡りも健康維持法の一つです」
『週刊新潮』2009年11月5日号、125頁。
刺激的なタイトルながら、たいしたことは書かれていませんでした。もっとも、ご本人は経歴を明らかにされない方針のようですので、あまり詮索してはいけませんね。
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昨年4月、やはり東京都庭園美術館で開催された「オールドノリタケと懐かしの洋食器」展の場合も、守屋知子氏という個人蒐集家のコレクションを中心とする展覧会であった。
東京都庭園美術館
→http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/2008/noritake.html
さてこの守谷氏もどのような方なのだろう……と、会場の係員に尋ねたところ、「皆さんによく聞かれるのですが、ふつうの主婦の方のようですよ」と教えてくれた。みんな考えることは同じだ。同館のプレスリリースに、以下のように書かれている。
主婦の(?)パワー守屋コレクション
今回の展覧会は、主に守屋知子さんという方のコレクションから作品をお借りして展示しています。展覧会をご覧になったお客様の反応で意外なほど多いのが、「守屋コレクションの守屋さんって、どんな方ですか?」という質問です。これだけの点数をコレクションされる方がどんな方なのか、ということにみなさん関心を覚えるようです。
美術工芸品のコレクターといえば、代々続く名家の方やセレブなのでは・・・と想像してしまいますが、守屋さんとご家族は「主婦の趣味が暴走したもの!」とおっしゃっています。学生時代にペルシア陶器を研究した守屋さんは、子育てが一段落したことをきっかけに大学で再び研究をはじめ、今度は日本のラスター彩(ペルシア陶器を源流とする技法で、金属光沢のある釉薬を用いたもの)をテーマとされ、その研究資料としてコレクションをはじめられたそうです。今回展示されているのはコレクションのほんの1割程度ということですので、その規模には驚かされます。ご家族の協力や理解も不可欠だったことと思いますが、どうしてここまで素晴らしいコレクションが生まれたのでしょう。
→http://www.teien-art-museum.ne.jp/news/pdf/20080512-noritake-sokuho.pdf
守谷氏と美術館学芸員との対談も聞いたが、碓井氏同様、骨董市などを丹念にまわって集められていると語っていた。
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いわゆる大金持ちではない骨董蒐集家はたくさんいるし、骨董商、蒐集家たちのモノやそれにまつわる歴史についての知識が生半可なものではないことは、なんでも鑑定団など見ていればわかる。とはいえ、それらの知識が多くの場合ミクロ的であるようにおもう。
それに対して、守屋知子氏、あるいは碓井文夫氏の蒐集品は、「骨董愛好家」という枠を越えた学問的な体系に基づいている、マクロ的視点があることが特徴であるといえようか。
守谷氏の場合、
筑波大学日本語・日本文化学類研究生として近代洋風陶磁器と日本文化の関係について研究を行ない、成果となる論文も発表された。そうした研究を元に、近代洋風陶磁器産業の歩みを異文化交流のひとつとして位置づける独自の視点からひとつずつ作品が集められた。主にアメリカなど海外市場向けにデザインされた製品と、日本国内市場向けに開発された製品を対比させ、デザイン手法の変遷にみる戦前の日本における洋風生活様式の定着の過程を探ろうとする意図が守屋コレクションの特色である。
鈴木潔「守屋コレクションにみる洋風陶磁器産業の歩み」『オールドノリタケと懐かしの洋食器』展覧会図録、2008年、8頁。
またご自身も、「日本の洋風陶磁器―そのデザインの生成」という論考を図録に寄稿ししている。
碓井文夫氏の場合は、前・佐賀県立九州陶磁文化館館長の大橋康二氏の指導の下に、日本磁器輸出350周年となる2009年を目指して古伊万里を蒐集した、と記している(碓井文夫「目指した2009年」『パリに咲いた古伊万里の華』展覧会図録、2009年、16-17頁)。
趣味と言うよりも、美術館や博物館がテーマに合わせて展示品を蒐集するようなコレクションのスタイルなのである。守谷氏の場合は自ら歴史を学びながらそれを実証する品々を集め、碓井氏の場合は外部の助力を得ながらこれを実現する。ただ海外の美術館・博物館の優品を持ってきただけの展覧会よりも、その内容は数段素晴らしい。
ただ、いずれも展覧会として見たときに、個人の蒐集品で構成することの限界を感じなくはなかった。背後のストーリーと、実際の展示がうまくつながっていないと感じられる部分もある。明確なテーマを以て、深い思い入れとともに集められた蒐集品の間を、たとえば他の美術館、蒐集家のコレクションによって補うことができたら、さらにすばらしい展示になると思う。そしてそのことは、おそらく守谷氏や碓井氏の蒐集の目指すところでもあろう。
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コレクション、あるいはパトロンということについて、考えた記事
実業家と美術 | metabolism
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展覧会と個人コレクションについて
美術館の展示企画が「個人蔵」に頼る理由とは?|日刊 鼠小僧
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