生誕100年記念
グラフィックデザイナー 野口久光の世界
香りたつフランス映画ポスター
ニューオータニ美術館(紀尾井町)
2009年11月28日~12月27日
ニューオータニ美術館は地味に良い展覧会を開きますね。
野口久光氏は1933年に東京美術学校(現・東京芸術大学)を卒業後、東和商事に入社。フランス映画を中心とした多数の映画ポスターを手掛けられました。今回の展覧会には1000点にもおよぶという作品の中から約60点のポスターとその他の資料が展示されています。
私は映画は殆ど見ないので、ポスターの内容について語るものはなにもないのですが、ポスターそのものはじつにすばらしい。このような表現が適切かどうか分からないのですが、野口氏は本当に絵がうまい。
だいたい2週間ほどの制作期間が与えられたそうですが、実際にはタイトルが決まらない、変更になるなど、1週間ほどで描かなくてはならかったとのこと。時間を節約するために活字を使わず、タイトルばかりか、監督や出演者名など細かい部分までをも描き文字で処理! それがまたよいのです。
展示は印刷されたポスターでしたが、「旅情」(1964年)のみ原画とポスターが並べられていました。印刷物では上部に1行のみ活字が追加されていますが、それ以外は、絵も描き文字も1枚の紙の上に完結しています。すばらしい構成力。この原画に至るまでにどのようなスケッチを描いていたのか、知りたいところです。
もうひとつ見るべきものは、野口氏の「若き日の映画ノート」です。展示されていたのは1928年と1933-34年のものでしたが、洋画のタイトル、監督、配役などが細かい文字(すべて欧文)で書かれたノートです。とくにタイトルにはひとつひとつ異なる装飾文字が用いられています。ノートというその構造上、見開いたページしか見ることができないのがとても残念です(図録に掲載されているのも見開き4ページ分のみ)。
* * *
野口久光氏以前の洋画ポスターはどのようなものであったのか、メモ。
それまでの映画のポスターは江戸時代からの広告媒体である「引札」や「役者絵」の流れを踏襲したようなものが多く、絵も描かれている人物の表情もタイトル文字も色調がどぎつく、ポスターの構図も作品の内容が異なっていても一定のお約束事のなかで処理され、パターン化されていた。……
そんな時代に、的確なデッサン力に裏打ちされ、表現力も豊かで、色彩感覚もヨーロッパ調の洗練された絵と、流麗でなおかつ作品ごとに異なった書き文字のレタリングで表された野口作品は、極めて異彩を放つものだった。
根本隆一郎「映画ポスター・デザイナー 野口久光」(展覧会図録、78頁)。
展覧会図録。
根本隆一郎『野口久光展図録』開発社、2009年12月。
Amazon.co.jpに掲載されていますが、残念ながら「この本は現在お取り扱いできません。」だそうです(2009.12.15現在)。
ところで、図録には会場に掲げられた解説文はすべて収録して欲しいと思います。メモする時間がなくて図録を買うこともあるのですから。
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