2012年7月1日日曜日

電気が足りないならガスを使えばいいじゃない。
ガス冷蔵庫!(再)

「ガスを燃やしてものを冷やす」ガス冷蔵庫は1922年(大正11年)にスウェーデンで開発されたのが始まりで、その後同国エレクトロラック社より発売され、ヨーロッパやアメリカで急速に普及しました。日本でも1928年(昭和3年)に紹介されました……昭和30~40年代には国産品も普及し、かなり使われるようになりました。ただ、ガスを燃やした際の排気の問題があり、電気冷蔵庫が登場してくると、家庭からは姿を消してしまいます。ガス冷蔵庫の利点は、電気冷蔵庫のようにモーターやコンプレッサーなどが必要ないため、音や振動が出ず、静かな製品であることです。今でもキャンピングカーなどではガス冷蔵庫はしっかり活躍しています。
http://www.gasmuseum.jp/kodomo/sirabete0706.html(2009年10月4日閲覧。リンク切れ)


最近「ガス冷蔵庫」という検索ワードが上がってきています。
原子力発電所再稼働の是非、計画停電の可能性が取りざたされているせいでしょうか。

以前、ガス冷蔵庫についてのエントリ(☞ こちら)を書いたときにはその仕組みがよく分かっていませんでしたし(今もですが)、リンクしていた東京ガスの解説ページがなくなってしまったようですので、ちっとばかし調べてみましたよ、というのが今回のエントリです。ちなみに、今年(2012年)は、ガス冷蔵庫が発明されてから90周年にあたります。

なお、ここに書いたガス冷蔵庫の情報は、基本的に昭和30〜40年代のものであります。
現在ではキャンピングカーなどでの利用を想定した3 WAY式(家庭用100V電源・自動車用12V電源・カセットガスもしくはLPガスの3種類が使用可能)の冷蔵庫が発売されています(☞ ググる)。現実的な備えをお考えの方は、そちらをご検討ください。

ガス冷蔵庫の特徴:長所と短所


『読売新聞』1957年8月10日、夕刊3頁。

すでに、家庭の必要品の一つになっている冷蔵庫には氷、電気、ガスの三種類ありますが、それぞれの形も各メーカーによっていろいろとくふうされた新型が出ています。従って、これから買われる方は、その選択に迷うこともありましょう。いまは、製品も出そろって品数も多いようですから、各冷蔵庫について特徴とか注意などを東京文化短大・沼畑研究室でうかがいました。(以下略)
『読売新聞』1958年5月9日、朝刊7頁。

特長は雑音、振動がない[ガス冷蔵庫] その特長は電気とほとんど同じだが、電気に比べて雑音や振動がなく、値段が二割位い安いことだ。ガスも電気も月の経費は氷より四分の一か五分の一位は安くつくが、ガスは電気に比べて月平均百円くらい高くつく。また電気とガスを比べて氷室に氷ができる時間は電気が約二時間なのに、ガスは約四時間と一長一短がある。電気冷蔵庫がフレオンガスを使っているのに対し、ガスの場合は、アンモニアの水溶液を使っているが、ガスで気にかかるのは、万一強い風が吹いた時など、ガスの口火が消えて中毒しはしないかということだ。しかし、この予防のためには安全器がついていて、こうした場合には自動的に火が消えるし、温度調節器で必要以上ガスが出ないようになっており、ガスのムダ使いということもない。
『読売新聞』1956年5月20日、朝刊12頁。

ガス冷蔵庫が販売され始めた昭和30年代、冷蔵庫には氷、電気、ガスの3種類がありました。当初より冷却能力は電気が最も優れていたようです。またガス代も、電気冷蔵庫より高かったようです。それでも、ガス冷蔵庫には、電気に比べて本体価格が安い、音がしない、モーターを使用しないために故障が少ないというアドバンテージがあったようです。

ガス冷蔵庫のしくみ:なぜ炎で冷えるのか


『読売新聞』1957年8月10日、夕刊3頁。

ガスを燃やして冷やす。
火は熱いじゃないですか。なんで冷えるんですか?

もちろん、ガスの炎は冷蔵庫内の温度に直接作用するわけではありません。冷却に用いるのはアンモニアガス。液体アンモニアが膨張して気体となるときに、熱を奪い、冷蔵庫を冷やす。そのアンモニアの作用を助けるのが、ガスの炎ということのようです。このしくみの冷蔵庫は「気化吸収型」と呼ばれています。


『読売新聞』1957年5月16日、夕刊5頁。

構造図を拡大してみましょう。


「おわかりいただけたであろうか。」
「さっぱり」という方、カラー版をどうぞ。

http://www.gasmuseum.jp/kodomo/sirabete0706.html(2009年10月4日閲覧。リンク切れ)

①アンモニア溶液をガスで熱するとアンモニアガスが発生する 《発生器》
②アンモニアガスが液体に凝縮される 《凝縮器》
③液体アンモニアが冷蔵庫内の熱をうばって気化し、アンモニアガスになる。 この時、冷蔵庫内のものを冷やす《気化器》
④アンモニアガスが再び水に吸収され、アンモニア溶液になる 《吸収器》
①に戻る

改めて文章で説明すると、以下の通り。
※上の図とは左右が逆になっています。



アルコールを皮膚に塗るとひやりと感じます。これはアルコールが気化するとき周囲から熱を奪うからです。電気冷蔵庫もガス冷蔵庫もこの“気化熱”を利用しています。
第一図はガス冷蔵庫のからくりです。8の字型に二つの回路があり、上の方には水素ガス、下の方にはアンモニア水が入っています。アンモニアが水に溶けこんだものがアンモニア水です。下の回路の一端をガスで熱すると、アンモニアガスができ、温められた水と一しょにアワになって管を昇って分離器に入ります。ここでアンモニアガスだけが上の回路へ入り、水はそのまま下の回路の右下へと下ります。
上へ向かったアンモニアガスはまず凝縮器へ入り、ここで冷やされて液体となったアンモニアは水素ガスとともに気化器に入りますが、気化器の中に噴出孔があって、液体アンモニアが孔から噴きだすと、急に体積がふえるため気体になります。この気化によって周囲から熱を奪うので、冷蔵庫の温度が下がります。水素ガスはアンモニアの気化を助ける役目をします。
気化器を通ったアンモニアガスは吸収器内で分離器から流れてくる水に溶けこんで、再び下の回路を流れて発生器へ戻りますが、水素ガスは水に溶けないので、上の回路をそのまま循環するだけです。こうしてアンモニアは連続的に気化されるので、気化器の付近は氷点下一〇度ぐらいに保つことができます。
『朝日新聞』1958年4月25日、夕刊3頁。

ガスを供給し続ける必要はあるわけですが、密封された管の中で作用が完結しています。

ガス冷蔵庫の特徴は、アンモニアの循環には電気冷蔵庫にあるモーターのような特別な装置がいらないことです。というのは、アンモニア水は重いので下に下がり、アンモニアガスのアワ立った水は軽いので上に昇り、自然に循環が行われるのです。
『朝日新聞』1958年4月25日、夕刊3頁。

なんだか永久機関のようなしくみですね。

『読売新聞』1956年7月3日、夕刊3頁。

スウェーデン生まれのガス冷蔵庫

ガス冷蔵庫は1922年にスウェーデンで誕生しています。
日本には1928年(昭和3年)に紹介されており、一部では使用されていたようです。ガス会社も輸入品を販売していました。


下の写真にも、内部にElectrolux社の銘板が見えます。




スウェーデンってどんな国?
……冷凍食品の輸出国としても知られています。

若い英知が生んだガス冷蔵庫
ガス冷蔵庫はそのスウェーデンで、一九二二年(大正11年)に発明されました。当時、ストックホルムの高等工業学校[註:スウェーデン王立工科大学に在学中だったマンター氏とプランテン氏[註:プラテン氏]。この二人の若い英知がガスを利用する食品冷蔵庫の、新しいメカニズムを生み出したのです。

今では世界の文明国で……
ガス冷蔵庫が生まれて、約半世紀。スウェーデンからアメリカへ、さらに世界の文明国へ。日本でも、昭和の初めから、そのすばらしさを知っている人びとの間で愛用されてきたのです。

『読売新聞』 1967年4月29日、夕刊6頁。

マンター氏とは……
Carl Georg Munters (1897-1989)。スウェーデンの発明家で、1992年、ストックホルムのRoyal Institute of Technology在学中に、フォン・プラテンとともに吸収式冷蔵庫(absorption refrigerator)を発明。マンターはまた発泡スチロールの原型を発明したそうです。(☞ Carl Munters - Wikipedia, the free encyclopedia

プラテン氏とは……
Baltzar von Platen (1898–1984)。スウェーデンの発明家。マンターとともに吸収式冷蔵庫を発明。その後スウェーデンの電機会社ASEAで研究開発に従事し、同社の合成ダイヤモンドの開発にも関わったそうです。(☞ Baltzar von Platen (inventor) - Wikipedia, the free encyclopedia


ガス冷蔵庫の安全性

ガス冷蔵庫を使用している間は、常時火が着いているわけです。危険性はなかったのでしょうか。

ガスの圧力調整や温度の調節はすべて自動的に行われ、万一火が消えた場合は、ガスが自動的に止まってしまうような安全装置もついています。
「東京ガス:ガス冷蔵器広告」『読売新聞』1957年5月16日、夕刊5頁。

ガスで気にかかるのは、万一強い風が吹いた時など、ガスの口火が消えて中毒しはしないかということだ。しかし、この予防のためには安全器がついていて、こうした場合には自動的に火が消えるし、温度調節器で必要以上ガスが出ないようになっており、ガスのムダ使いということもない。
『読売新聞』1956年5月20日、朝刊12頁。

だそうです。

ただ、調べてみると、次のような記事がありました。

ガス冷蔵庫の炎に接着剤の“霧”引火? 3むね焼く
……西新井署の調べでは、○○さんの妻○さん(三九)が居間でバレーボールの球の外皮をはり合わせる内職をしているうち、そばのガス冷蔵庫の下から火が出たという。ほかに火の気が無く、はり合わせに使う揮発性の接着剤が霧状になって充満、冷蔵庫の空気穴からはいってガスの炎に引火したらしい。
『朝日新聞』1965年(昭和40年)7月21日、朝刊15頁。

ガス冷蔵庫爆発 千葉 もれていた可能性
【千葉】二十四日夕、千葉市内で家庭用のガス冷蔵庫が爆発した。けが人はなかったが「留守だったら火災になるところだった」と、消防署はいっている。……高さ約一メートル、幅、奥行六十センチの冷蔵庫の内部はメチャメチャにこわれた。……東京ガス千葉支社は「アンモニアには異常はなかった。都市ガスがもれていたらしい。ガス管の継ぎ目の部分が痛んでいたか、ガスのホースが古くなって裂け目ができていたかどちらかだろう」といっている。
『朝日新聞』1967年(昭和42年)8月25日、朝刊15頁。

いずれもガス冷蔵庫特有の事故というわけではなさそうですが。

CA方式のガス冷凍冷蔵庫 グリーンメカ!



CA貯蔵って、ご存じですか。私は知りませんでした……。野菜の鮮度を保つための方法だそうです。

シーエーちょぞう【CA貯蔵 controlled atmosphere storage】
果物や野菜などの青果物を気密性の高い冷蔵室に入れ,室内の炭酸ガス濃度は大気よりも高く,また酸素濃度は低くなるようにガス組成を調節して長期間貯蔵する方法。青果物は水分含量が多くて腐敗しやすく,また収穫後も蒸散や呼吸が盛んなので,しおれやすく,糖や酸の含量も急速に低下する。したがって,青果物の鮮度や品質をかなりの期間保持するためには,一般に低温で貯蔵して蒸散や呼吸を抑え,微生物の繁殖を防ぐ必要がある。低温に弱い熱帯,亜熱帯産のものを除き,貯蔵適温は0~4℃のものが多い。(世界大百科事典 )

つまり、炭酸ガスの濃度が高い環境では、野菜は長持ちするらしい。
そこでガスですよ。ガスを燃やすと炭酸ガスが発生しますね。その炭酸ガスを野菜の保存に使ってしまおう、というのが、「グリーンメカ」。

最近、ガス冷蔵庫に「グリーンメカ」と呼ばれる装置が付いた。冷蔵庫を“暖めた”あとの排気ガスを、冷蔵庫内の野菜貯蔵庫に送り込み、排気ガスに含まれる炭酸ガスで、野菜の呼吸作用を押さえようというのである。野菜やくだものは、冷蔵庫の中でも酸素を吸って呼吸しながら老化してゆく。炭酸ガスで、“窒息”させてやれば、老化防止になるというわけ。
古くなりやすいセロリやバナナなどには効果てきめんで、二週間たっても新鮮な色を保っているとか。有害な排気ガスも、使いようで役に立つ。
『読売新聞』1970年4月10日、朝刊8頁。



これは7日前のセロリです。
ガスだけがその生気を保てます。


シーズンに関係なく、最近は野菜やくだものがでまわっています。これは保存ガスによる大量貯蔵を行なっているからです。この機構を一般家庭用に利用したのがグリーンメカ・ガス冷蔵庫です。野菜貯蔵室の中は温度4〜10℃、湿度80〜90%、保存ガスが満たされ貯蔵に理想的な状態です。緑とみずみずしさを失わせません。
「東京ガス:ガス冷蔵庫広告」『読売新聞』1970年4月19日、夕刊3頁。

ガス冷蔵庫の終焉

昭和27(1952)年、一段と広がる夏冬のガス需要格差の是正と、夏季におけるガス販売量増大策の一環として、当社は国産ガス冷蔵器を販売した。のちに、炭酸ガスによる野菜の新鮮保存機能「グリーンメカ」も付加した。……27年の発売以降、性能の向上と賢明なキャンペーンセールの展開によって、[昭和]40年には普及率が8.2%にまで上昇した。しかし、冷凍食品の普及に伴い、急速冷凍機能を備えた電気冷蔵庫が普及、48年度末、販売を停止した。
『大阪ガス100年史』2005年10月、117頁。

なるほど、ゆっくりと冷え、最低温度もマイナス10℃程度のガス冷蔵庫は、冷凍食品(マイナス18℃以下で保存)の普及に対応できなかったのですね。

3 件のコメント:

  1. 発想はすごいですが常時火が付いているというのはやはり怖いですね。締め切っていると酸欠の恐れもありそうですね

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    1. 実家で使っていましたが、最下部の点火窓から見ていると、そんなに大きな火じゃなかったですよ。

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  2. 私の実家では、親父が大阪ガス勤務だったためか、ガス冷蔵庫でした…。

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