2012年7月4日水曜日

電気が足りないならガスを使えばいいじゃない。
ガス洗濯機!!

何かが不足しているなら、代わりとなる品を探す。マリー・アントワネットの言葉もあながち間違いではありません(えっ)。
電気が足りないなら、節電。でも便利な生活は手放したくない。
そんなあなたにガス洗濯機!

1958年(昭和33年)に世界初のガス洗濯機が開発、販売されました。
お湯を使えば洗剤がよく溶ける。洗剤がよく溶ければ、汚れもよく落ちる。すすぎもきれいに仕上がる。そのお湯を沸かすためにガスを用いるのは、理解できます。
このガス洗濯機のすごいところは、お湯を沸かした上に、洗濯までもガスのエネルギーを利用してやってしまおう、というところ。
いったいどのようなしくみになっているのでしょうか。

ガス洗濯機のしくみ



ガス洗たく機
せんたくには冷たい水よりもお湯を使った方がよく汚れが落ちるのは当然です。ガスせんたく機は、かならずお湯でせんたくしようとの目的で考えられたものです。
第二図はガスせんたく機のからくりです。上部にあるせんたく用の水そうは電気せんたく機のものと全く同じですが、その底にお湯と蒸気の噴出口がついています。お湯と蒸気はともに湯沸ガマでつくられますが、せんたくする衣類によって湯の温度を二通りに加減できます。熱に弱い化繊に対しては摂氏三十五度前後に、木綿類に対しては六十度ぐらいに調節できます。あとから送りこまれる水の圧力で昇ってきたお湯が水そうにいっぱいたまるとハンドルを蒸気に切替えます。するとカマに送られる水がとまり、カマの湯は沸騰し蒸気ができます。この蒸気が空気と混ぜ合わされて水そうの底から噴き出します。その力で水そうの中にぐるぐると回る水の流れができるので、せんたく物が洗われるのです。
ガスせんたく機はせんたくばかりでなく、湯沸用やタオル蒸しにも使えます。目下、特許出願中、電力会社に挑戦するガス会社の新兵器として改良工夫をつづけており、売り出されるのは六月下旬の見込みですが、値段は大体電気せんたく機なみになろうということです。
『朝日新聞』1958年4月25日、夕刊3頁。

「しくみ」ではなくて「からくり」。時代がかっていていいですね。
さて、ガスは洗濯用のお湯を沸かし、洗濯槽を攪拌するために、底から水蒸気が噴き出す、というわけです。なんか手でゆるゆるとかき混ぜるのと大差ないような気もするのですが、これでキレイになるのでしょうか。お湯だから大丈夫?

『読売新聞』にも解説記事が掲載されています。

電気器具に対抗してガス器具業界でも矢つぎばやに新製品を送り出しているが、こんどはガス洗たく機が登場、電気洗たく機の領域に食いこもうとしている。
これはエスヤ製作所が東京ガス、東洋綿花の協力を得てこのほど試作に成功したものだが、ガスに点火して湯をわかし、発生した蒸気に空気をまぜて、これを洗たくそう(槽)の中にふき出し、その圧力によって水を噴流させるもの。ガス洗たく機の実用化はわが国はもちろん世界でもはじめてで、目下国際特許を出願中だという。
電気洗たく機にくらべ値段が少々高く(二万六千円程度といわれる)ガス施設のある都市だけでしか使えない、中毒不安があるなどの欠点があるが、生地がいたまないし、ススギも温湯でやれるので仕上げもきれいになるなどの長所をもっているという。
本格的な生産販売の計画ははっきりしていないが、差当り月産三千五百台ー四千台、五月頃一般市販開始を目標に計画を進めている。
『読売新聞』1958年2月22日、朝刊4頁。

ガス洗濯機の広告

なにしろ、世界最初の実用化です。ガス洗濯機にどのような効用があるのか、だれも知らないわけです。ですから、説明も詳しくなる。長くなる。




風呂の湯も20分で溢れる
家庭の湯の元
東京ガス式
温水洗濯機


素晴らしい洗浄力
コックを開けばすぐお湯が出る……
取扱はオートメ式です


温水洗濯機は電気洗濯機に、高性能、最高級ガス瞬間湯沸器を装置したもので、すばらしい洗浄力のほか、他に類例のない数多くの特色を備えております。

▼洗濯機としての特色
・高温の湯で洗いますから汚れが完全に落ちます。
・高温の湯で洗う為洗剤は他品の半量以下ですみガス代を加えても尚費用は一般より安く付きます
・高温で垢を熔解しつゝ洗浄しますから無理な回転の必要がなく生地をいためません
・湯でススギ洗も出来ますから、石鹸分が残らず、アイロン仕上しても石鹸やけがしません。
・木綿、毛類、化繊等に対して適当な温度の湯が得られます。
染色にも利用できます。

▼湯沸器としての特色
・水槽には3分約四円で湯が溜ります。
・高温、中温、低温の湯が自由に得られます。
洗濯だけでなく、台所、掃除、行水、洗面、シャワー、風呂等の湯もすぐ得られます。
特に風呂の湯は約二十分ガス代は平均約二十六分で浴槽に一杯になります

▼自動安全装置附
・水栓を開けば自動的に点火スグ湯が出ます
・水栓を締めると湯も止りガスも自動的にすぐ消えます。
・ガスの火が風などで消えれば自動的にガスの出が止ります。
・どんな場合にも空焚がなく途中断水した時でもガスは自動的に止まります
・使用しない時、水栓又はガスコックを誤って開いてもガスは出ません
一般の電気洗濯機と大差のない破格な特価で温水洗濯機は御買い求めになれます。その結果は電気洗濯機と高級ガス瞬間湯沸器と二つのものを同時に御求めになられた事になり便利この上ない事になります。

『読売新聞』1958年9月9日、夕刊3頁。

なんとおどろき、ガス洗濯機は洗濯だけではなく、台所の洗い物、風呂にお湯を入れるなど、ガス湯沸器としても使えたのです! 一石二鳥です。

安全性についても、これでもか、というほど強調されています。当時のガスには一酸化炭素が多く含まれており、ガス爆発以前に中毒の恐れがあったからでしょう。




適温で洗えて 適温でゆすげる
新しい洗濯機
お洗濯が早くてキレイで石鹸も節約
湯沸器にも使えてトテモ便利……


お湯の温度が自由に調節できる  毛織物 アセテート レーヨンは30℃ ナイロン オーロン テトロンは40℃ 木綿や麻なら40℃〜60℃というように洗濯物の種類によって 適した温度のお湯で能率的に洗え ゆすぎも完全で生地をいためず 石鹸やけもしません
いつでも いるだけ すぐお湯が出る 出湯管が自由に回転して洗面用 皿洗い用など湯沸器として手軽に使えガス代も七輪で涌かす半分以下ですみ 経済的です。

『朝日新聞』1958年9月17日、夕刊4頁。

ガス代の比較対象は七輪ですよ。

ふしぎなことに、洗浄(攪拌)の方法についてはなにも書かれていません。同時代の電気洗濯機メーカーは、その洗浄方式の違いを製品のウリにしていたのですが。

ガス洗濯機は売れたのか

ガス洗濯機は電気洗濯機の市場を侵食することに成功したのでしょうか?

東京瓦斯、大阪瓦斯の社史にあたってみたのですが、「ガス洗濯機」の記述を見つけることができませんでした。さきにとりあげたガス冷蔵庫は写真入りで紹介されていたんですけれどもね。

ガス洗濯機を開発したのは東京の「エスヤ製作所」。この会社は戦前からガス風呂などを販売していた会社のようです。

『朝日新聞』1933年5月30日、夕刊2頁。


『読売新聞』1957年2月12日、朝刊7頁。

この会社、新聞各紙にたびたび広告を出していたようなのですが、1958年9月にこの「ガス洗濯機」の広告を出稿して以降、検索しても社名を見つけることができないんです。
「月産三千五百台ー四千台」とのことでしたが、これがさっぱり売れなかったとしたら……

ガス白熱燈、ガスラジオ、ガス扇風機、ガスオルガン……

『朝日新聞』1902年3月29日、朝刊8頁。

街路燈としてガス燈が用いられていたという話は聞きますが、それ以外にもガスはさまざまな用途に用いられたようです。


ガス扇風機。
ガス冷蔵庫のように、なんらかの装置で冷風が出るのかと思いましたが、そうではなさそう。1985年に東京ガスが開催した展覧会「暮らしとガスの百年展」に関する新聞記事には扇風機の形状をした《英国製温風換気扇》が紹介されています(『読売新聞』1985年10月17日、朝刊19頁)ので、どうやら温風器の一種らしい。


このときの記事には、他にガスラジオ(!)も紹介されていますが、写真もなければ説明もなし。いったいどのようなしくみだったのでしょうか。

まったくもって「事実は小説よりも奇なり 材木はプラスチックよりも木なり」 。
パタリロ殿下の「ガステレビ★1もびっくりです。

★1—魔夜峰央『パタリロ!』第3巻「パタリロより愛をこめて」。

2 件のコメント:

  1. 「エスヤ製作所」についてですが、ガス温水洗濯機の売れ行きが芳しくなかったのと鍋底不況とかで経営が傾いたようで、これに憂慮した東京ガスが東洋棉花(現・豊田通商)と手を組んで1959年に関東ガス器具(ガスター)を設立し、エスヤの事業を移管させました。その後ガスターは1965年に室内空気を用いないバランス燃焼方式の縦長風呂釜を開発、住宅公団(当時)に大量納入したことで息を吹き返しました。それと引き換えにガスこんろ、ガスストーブ等の調理・暖房器具からは年を追うごとに整理縮小しました。

    他に、北海道・北東北を主要市場としている大型石油ストーブの老舗「サンポット」は、ガスターの石油ストーブ部門がルーツです。

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  2. 「エスヤ製作所」についてですが、ガス温水洗濯機の売れ行きが芳しくなかったのと鍋底不況とかで経営が傾いたようで、これを憂慮した東京ガスが東洋棉花(現・豊田通商)と手を組んで1959年に関東ガス器具(ガスター)を設立、エスヤの事業を移管しました。その後ガスターは1965年に室内空気を用いないバランス燃焼方式の縦長風呂釜を開発、住宅公団(当時)の指定製品となって大量納入に成功、息を吹き返しました。引き換えにガスこんろ等の家庭向け器具については年を追うごとに整理されました。

    他に、積雪寒冷地の北海道・北東北を主力市場としている大型石油ストーブの老舗「サンポット」は、元々はガスターの石油ストーブ部門がルーツです。

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