2012年5月9日水曜日

頭腦の不完全なる者は馬鹿であります

頭脳の不完全なるものは馬鹿であります

調べちゃったじゃないですか。
※前エントリ・コメント欄参照。

《健腦丸》《快腦丸》、ただの《腦丸》、その進化形の《ノーガン》、濁点が取れた《ノーカン》と、脳の薬はいろいろあったようです。そのうち、標題のコピーは《快腦丸》のものでした。


『朝日新聞』明治31(1898)年2月13日、7頁。

頭腦の不完全なる者は馬鹿であります
文字面だけをみると、おそろしく刺激的なキャッチコピー。
でも、ふりがなと合わせて読むと、けっこう妥当なことを言っているようにも読めます。以下、書き下し。


頭腦[のうずい]の不完全[よからぬ]なる者は馬鹿であります

言[こと]は過大[すぎし]に似たれども第一腦髄[のうずい]健全[たしか]ならざれば、記憶に踈く判斷力に乏く事に耐るの根氣なし豊[なんと]馬鹿[ばか]痴鈍[たはけ]と云[いふ]も無理ならざるべし今の世は腦力を要[もちい]する事多し故に復[また]腦病を患[うれ]ふる人多し茲[こゝ]に紹介[おしへ]する快腦丸は元來[もと]名醫[めいゝ]の處方にして數多の人を全治し其効[そのかう]實に偉大[おほい]なり○少しの事務[つとめ]を掌[と]るに當り忽ち頭脳に痛みを覺へ何事も倦み易く人と應接[はなし]するも氣踈く又は夜眠れず瑣細[すこし]の事も気に懸る等總て神經系病腦病脊髄病より起る諸症頭痛逆上[のぼせ]眩暈[めまひ]耳鳴[みゝなり]等を全治[なほ]し腦力をして益々强壯[つよくさかん]ならしむる古今の良劑[よきくすり]なり


まず、「頭脳」と書いていますがこれを「のうずい」と読ませ、本文でも「脳髄」と書いています。
辞書では「脳髄」は「脳」に同じとありますが、ここで「脳髄」が具体的に何を指しているのかは不明。でも、その「脳髄」が健全でなければ、記憶力が悪く、判断力に乏しく、根気も出ない。それでは、バカとかタワケといわれてもしかたがないだろう、ということです。
今日、「脳力」を用いる機会が多いが、他方で「脳病」を患うものも多いので、《快腦丸》をお勧めするという次第。

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では、《腦丸》の広告。
こちらは商標が強烈。


『朝日新聞』明治38(1905)年1月1日、5頁。

廿世紀の優等新藥
腦病全治保証藥

腦病の症候

非常出来事の為腦神経を過度に労し或は大酒喫煙房事過度又は打撲傷等に起因し頭重く或は眩暈嘔吐を催し顔色蒼白、記憶力缺乏、精力薄弱、心身疲労、神經過敏物に驚ろき不眠症を起し氣鬱、痙攣、逆上、便秘、脊髄痛み、遺精早漏、耳鳴等種々の症候を來し重症に陥る時は、脳充血、中風俗によいよいと稱して言語不調、四肢不自由となり遂には恐るべき卒中を起こす事あり、飲酒家及身體肥満者等は警戒怠るべからざるなり
◎のうぐわんを用ゆれば前記諸病を全治する事請合いなり

便秘にも遺精早漏にも効くのですから、なんでもありですね。そもそも脳に関係しているのでしょうか。


『朝日新聞』明治39(1906)年4月20日、5頁。

志んけい衰弱
のう病を全治す
帝國腦病院長齋藤先生御方剤
腦丸を用れば腦神經を健全ならしめ逆上を鎭め通じ快く精神快活に記憶力を増し卒中中風を防ぐ

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「便秘にも効く」と書きましたが、《健腦丸》は《健のう丸》と名前を変えて、現在でも便秘薬として売られているようです。もっとも緩和される症状として「頭重、のぼせ、肌荒れ、吹出物、食欲不振(食欲減退)、腹部膨満、腸内異常発酵、痔」とありますから、明治の頃とそれほど変わらないという印象を受けます。明治の広告で謳われていた諸症状も原因は脳ではなく、便秘のためだったということでしょうか。

2 件のコメント:

  1. 調べちゃいましたか(笑)。ありがとうございます。

    あ、そのキャッチは「のうぐわん」じゃなかったですか。うろ覚えだったことをちょっとネットで調べてから書いたんですけどね。でも当時は区別がついていたでしょう。つまり『快腦丸』のキャッチフレーズと『脳丸』のビジュアル・ネーミングは、それだけインパクトがあるということですよね。当時の人と現代の人とは、受け入れ方が違うんでしょうけれど。

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  2. 調べちゃいました(笑)。

    でもいくつかヒットした《快脳丸》の広告の内、このキャッチコピーを使っていたのは1つだけなんです。
    ネットでも画像は何かの本から取り込んだらしいものがあるだけで不明瞭。看板とか引き札とか、他の媒体にもあったのかもしれませんが。
    ま、薬や煙草の広告は詳しい人がたくさんいるようなので、私としてはあとは《快脳丸》の他の広告を貼るぐらいにしておきます(笑)。

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