8世紀から約700年の間、南部を中心に、イスラーム勢力の統治下にあったスペインでは、他のヨーロッパの国々とは大きく異なる文化が育まれました。
イスパノ・モレスク陶器は、イスラーム陶器の技法を継承し、スペインで焼造された錫釉陶器です。中でも、金属質の光彩を放つ絵付けを施したラスター彩陶器は、その華やかさで人々を魅了してきました。13世紀に、ラスター彩陶器の製作地である中近東にモンゴル人が侵入すると、陶工を含む多くのイスラーム教徒がスペインに移住し、マラガなど南部の地域でラスター彩陶器が盛んに焼造されるようになりました。15世紀末にイスラーム王朝が滅亡した後も、スペインに残った陶工たちを中心に東部の窯場が発展しました。マニセスでは、王家や貴族の紋章を描いた大皿など華やかなラスター彩陶器が製作され、パテルナやテルエルでは、緑、青、茶などの顔料で人物や魚などを自由闊達な筆遣いで描いた陶器が製作されました。
本展は、ラスター彩陶器を中心に、当館の所蔵するスペインの錫釉陶器約60件を初めて一堂に展示致します。(展覧会サイトより)
メモランダム
館蔵コレクションによるスペイン陶器の展覧会。
展示品には17世紀、18世紀、19世紀のものが多数。
18世紀ヨーロッパの陶磁ならば、中国陶磁の写しがあっても良さそうなのですが、今回の出展品には染付風の青い絵付けの陶器はあれども、青い芙蓉手はひとつのみ。他はラスター彩が大部分で、でもイスラム風とは限りません。
スペイン陶器はそういうものなのかなと思いつつ見ていると、パネルに石洞美術館創設者・佐藤千壽氏(1918~2008)の次の言葉。
もともとヨーロッパの陶器など、殆ど歯牙にもかけなかった私が、どうしてスペインのやきものに、こんなに深入りしてしまったのか。その開眼はバレンシアの国立陶器美術館を訪れた時に始まる。(略)そこにずらりと勢ぞろいしたパテルナの古陶には、一見して度肝を抜かれてしまった。それは当時の私にとって全く未知のものだったし、見たこともない不思議な世界だった。それは東洋でもなければ、我々の知っている西欧でもない。斬新で鮮烈で、然も、やきものマニアをどこまでも引き込んでゆく、不思議な古格と魅力があった。
なるほど、佐藤千壽氏にとって、東洋風、芙蓉手の染付は興味の対象ではない。アジアでもなく、ヨーロッパでもない独特のデザインに惹かれてそれを集めた、ということなのか。
なお、ラスター彩でありながら芙蓉手風の図柄のものが1点ありました。これはとても興味深い。
技術はイスラム由来、様式は中国、図柄はスペイン。
ハイブリッド!
※ 芙蓉手(ふようで):見込みに主文様を窓絵にして置き、周囲に蓮弁を配し、 その中に宝尽しや花文を入れた意匠の磁器。
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石洞美術館から北千住まで徒歩20分、南千住まで徒歩15分ということをいまさら知った。次からは常磐線を使おう。それなら都区内パスだけで行ける。品川から直通もある。
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