2015年12月16日水曜日

高橋明也『美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには』ちくま新書、2015年。




高橋明也『美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには』
ちくま新書、2015年。


メモランダム。

美術館や博物館に比較的よく足を運ぶ方だと思いますが、私は関係者でもなければ専門家でもありません。学芸課程を履修したこともないので、展覧会の裏側で関係者たちがどのような苦労をなされているのか、ほとんど知りません。

展覧会に行く理由は、展示されている作品を見ることが第一義です。どんな作品が出品されているのか、誰の作品なのか、何を見ることができるのかが、一番の関心です。

けれどもいくつもの展示に足を運んで、似た様な作家、作品、時代のものを繰り返し見る機会が増すにつれて、展示の構成の違い、組み合わせの違い、焦点の置きかたの違い、見せかたの違いといった面が気になり始めます。その違いの背景にどのような理由があるのか、気になり始めます。やがて作家、作品を見に行くだけではなく、「展覧会」を見に行くようになります。いや、作品そっちのけで、作品の配置構成やら、壁の色やら照明の具合やら、動線の配置、お客さんの入り具合が気になり始めます。

趣味関心がその直接的方面からその周辺へ、その裏側へと拡がることは、「美術展」に限らず、みなさん経験がおありでしょう。三菱一号館美術館の高橋明也館長が、自身の経験、周辺のできごと、業界裏話を書き下ろした本書は、美術展にあししげく通ううちにその舞台裏にも関心を持ち始めた人たち(私を含む)に、最適の一冊。三菱一号館美術館の展覧会を見に行ったことがある人ならば、より具体的に楽しめると思います。

目次から章タイトルを示しておきましょう。

1. 美術館のルーツを探ってみると……
2. 美術館の仕事、あれやこれや大変です!
3.はたして展覧会づくりの裏側は?
4. 美術作品を守るため、細心の注意を払います
5. 美術作品はつねにリスクにさらされている?
6. どうなる未来の美術館

惜しむらくは、本書を読んで「美術館の舞台裏」に関心を持った人たちがその裏側をさらに深く知るための文献ガイドがないこと。逆に言えばそれがないということは、本書のターゲットがどの方面を想定しているのか、想像されましょう。あそことか、あそことか、あそことか。

本書195頁に、SNSの可能性について書かれています。口コミ効果といった宣伝手段の側面もありますが、日本で展覧会批評が未熟であること、そうしたなかでSNSに投稿される展覧会の感想を通じて直接的に反響を知ることができることの有用性が指摘されています。それゆえに、高橋館長はPCの前に座り、日夜ネットでエゴサーチしているらしいですよ。
ふふふ。

  



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