2013年8月10日土曜日

世田谷美術館:栄久庵憲司とGKの世界 01


榮久庵憲司とGKの世界
鳳が翔く
2013年7月6日(土)〜9月1日(日)
世田谷美術館

事前に噂は聞いておりましたが、じっさい大変にぶっ飛んだ展覧会でした。このウェブログを見て世田谷美術館に行こうという方がいらっしゃるかどうかは分かりませんが、どのようにぶっ飛んでいるのかは、ぜひご自身で体験していただきたい。まだ会期は終わっていませんので、ここでは展示の詳細については触れないでおきたいと思います。私自身の知りたいことが分かる展覧会か、というと微妙でした。ただしそれは展覧会の良い悪いではなく、展覧会企画と観覧者(=私)のミスマッチということです。逆に企画の趣旨を理解すれば、ああなるほどという感想を持つと思います。

で、その企画の趣旨は何かと言えば、榮久庵憲司というインダストリアル・デザイナーをトップに抱く創造集団GKが生み出してきた多様なプロダクトの背後にどのような思想があるのか、ということです。GKグループは、GKデザイン機構を中心とする12の企業から構成され、200人を超える社員を抱えるデザイン・グループです。扱う領域はパッケージやCI、ブランディング、サイン計画、家電や産業機械、鉄道車両、博覧会設備等々、じつに多岐にわたっています。

編年的にプロダクトを並べる方法もあるでしょう。そこにそれぞれの時代の出来事、世相などを付け加える(安易な)方法もよく見られます。しかし、そのように個々のプロダクトを並べて、はたしてそこに共通の思想を見ることができるでしょうか。しょうゆ瓶とモーターサイクルを並べて、成田エクスプレスと博覧会ゲートを並べて、はたして共通の思想を読み取ることができるでしょうか。同じデザイン企業から生み出されたものであることを理解することができるでしょうか。

そこで登場するのが榮久庵さんのルーツ、思想的バックグラウンドである仏教。そしてその思想を具現化した道具曼荼羅、道具千手観音像、池中蓮華などのインスタレーション。思想を形にする、教義を目に見えるものにするために、こんなアプローチがあったのか、と吃驚するわけです。

* * *

全くの個人で仕事をしているデザイナーもいますが、複数のデザイナーを雇って仕事をしている事務所もたくさんあります。しかしそれでも、その経営者たるデザイナーのカラーが明白に見て取れる場合が多い。ドーンデザイン研究所であれば水戸岡鋭治さんのカラーがはっきりしている。サムライであれば、佐藤可士和さんのカラーが明確にある。おそらく仕事を依頼する側も、そのようなカラー(あるいは作家性)を期待しているのではないでしょうか。しかし60年を迎えたGKの仕事を、12のグループ企業の仕事を、200人超の社員の仕事を、同じように個人のカラーで語ることができるかどうか。

もしそれを語るとしたら、たとえばソニー・デザインの歴史を語るとか、資生堂やサントリーのデザインを語るとか、そういうことと似たような話になるのではないでしょうか。つまり、個々人のデザイナーではなく、企業の文化を語る。

しかしそれでも問題はあります。なぜなら、GKには複数のクライアントがあるわけです。そして、クライアントにもそれぞれの企業カラーがあるわけです。さらに言えば、コンシューマー、ユーザーが存在するわけです。あまりにも変数が多い。あまりにも複雑。いったいこの会社の仕事をどのようにまとめ、提示することができるのか。「榮久庵憲司とGKの世界」展のぶっ飛んだ展示は、この複雑な課題に対するひとつの解答、アグレッシブな挑戦だと思うのです。といったらほめすぎか知らん。ネットでは賛否両論の展覧会のようですね。

ただ、榮久庵さんやGKに対する予備知識がまったくないと厳しいとは思いました。『道具論』(鹿島出版会、2000年)、『袈裟とデザイン』(芸術新聞社、2011年)、『デザインに人生を賭ける』(春秋社、2009年)あたりを読んでから観ると、その企図が分かりやすくなるのではないかと思います。榮久庵憲司とGKの仕事全般については『デザインに人生を賭ける』がお薦めかな。


  

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