2023年4月4日火曜日

21_21:The Original:展覧会コンセプトを考察する



The Original
2023年3月3日〜6月25日
21_21 DESIGN SIGHT


ツイートを検索すると、とても評判がよいようですね。

今回の企画に限らず、21_21の展覧会は作品のセレクト、展示構成が魅力的でデザインにセンシティブな人々に評判がよいのは頷けます。ただ、私自身にとって21_21の展覧会はnor for meなことが多いので最近は足を運ばないという選択をしてきました。

今回はある展覧会レビューが企画意図を読めていないのではないかという企画者のツイートを読み、そのレビューの妥当性を考えるべく、久しぶりに訪問したのでした。


当該レビューのポイントを上げますと

・家具や日用品を中心に世界のデザイントレンドの概要や変遷を見るという点では、本展はこの上ない。
・本展で着目しているデザインのポイントとは、主に造形性。しかしデザインの本質や役割とは何かを突き詰めていくと、造形性はあくまでデザインの一要素でしかないのでは。
・名作と言われる家具や日用品には、造形面だけでなく、その時代の新しい素材や技術、使い方などに挑んだからというエポックメーキングな経緯が多い。

ときて、

「もし私がオリジナルという言葉を解釈するならば、そうした革新性を伴い、それが人々や社会にどれほど役立ち、貢献したのかという点を重視したいと思う」

と書かれています。
The Original|杉江あこ https://artscape.jp/report/review/10183470_1735.html



引っかかりを覚えるのは「もし私がオリジナルという言葉を解釈するならば」という部分でしょう。これは「自説開陳レビュー」というやつです。企画意図を考察して疑問点を糺すのではなく、文脈は無視して自説を述べる。学会報告や講演会の質疑応答でしばしば見られるアレです。

これではそもそも話は噛み合いません。自分なりの解釈は自分の展覧会でやっていただきたい。

それに実際に展覧会を見れば分かると思いますが、「世界のデザイントレンドの概要や変遷を見る」という趣旨の企画・構成ではありませんよね。その点でもレビュアーはいったい何を見たのだろうかと思います。


* * *

さて、「The Original」はどういう展覧会なのかを考えるには、ここで何を以て「Original」と言っているのか検討する必要がありましょう。

ステートメントには次のように書かれています。

本展では、世の中に深く影響を与えるデザインを「The Original」と定義し、紹介します。ただし、ここでいう「The Original」は必ずしもものづくりの歴史における「始まり」という意味ではありません。多くのデザイナーを触発するような、根源的な魅力と影響力をそなえ、そのエッセンスが後にまでつながれていくものです。
https://www.2121designsight.jp/program/original/


「ディレクターメッセージ」には、

「確かな独創性と根源的な魅力、 そして純粋さ、大胆さ、力強さをそなえたデザインを、この展覧会では 「The Original」と呼びたいと思います。」 https://www.2121designsight.jp/program/original/director.html


とあります。

そのほか、企画者の言葉などを読むと、ここでの「オリジナル」は現在見られるデザインの源流と言えるプロダクトを意味しているように思えます。「オリジナル」に対比されるのは「コピー」とか「パクリ」とか「オマージュ」「影響」でしょうか。展覧会の最後にそうした言葉が一覧されています。

ただ、企画原案の深澤直人さんのニュアンスは少し違っているようです。たとえば「なかなか真似できないオリジナルがある。オリジナリティが強すぎてそのかたちが2度と使えないのである」という言葉です。

また「生きているうちにすばらしく真似されないオリジナルを生み出そう」ともあります。ということは、この「オリジナル」は「源流」ではなく、「唯一無二」という意味と受け取るべきかと悩むわけです。ここはもう少し整理して欲しかった部分です。

私自身はデザインとは課題の発見とその解決と考えているので、誰の影響も受けていないプロダクトとか、逆に誰にも影響していない(真似されない)孤高のプロダクトなど歴史的に意味がないのではないか、と思ってしまうわけですが、前掲レビューが指摘しているように、この展覧会が着目しているのはデザインの「造形性」であって、プロダクトやその発想のオリジナリティではなく造形的なオリジナリティを意味していると、深澤さんの言葉は理解できます。ディレクターの土田貴宏さんも「デザイン=問題解決という図式以外の要素も盛り込みたかった」と述べているとのことですので(https://mononcle.art/story/page-13284/)、「造形以外も重要ではないか」というコメントはまったくお門違いですね。そういう話はしていません。

20_21では2009年に深澤直人さんのディレクションで「見えていない輪郭」という展覧会が開催されています。これもプロダクトのフォルムに注力した展示でした。ですので、これが深澤さんのデザインへのアプローチなのかも知れません。この展覧会については以前書きました。

👉 http://tokyopasserby.blogspot.com/2009/10/2121the-outline.html


* * *

では、この展覧会は造形的な意味でオリジナリティのあるプロダクトを見せ得ているのか。

おそらくそうなのでしょう。

「おそらく」というのは私の知識が不足しているからです。知識がないから、それが「オリジナル」なのかどうか判断できないのです。

たとえばトーネットの曲げ木椅子であれば、「オリジナル」なのだろうと分かります。有名なので。レゴもそうでしょう。カンチレバーの鋼管椅子のように、マルト・スタムとマルセル・ブロイヤーとどちらが先かという論争が解説されているものもあります(でもブロイヤーの椅子の方が後のデザインに「影響」していますよね)。

しかし、「オリジナルです」と言われても「そうなんですか」というほかないものもあります。繰り返しになりますが、知識がないので。

キャプションではなぜこれが「オリジナル」なのかを説明していますが、必ずしも十分ではない。その点がやや不満です。ディレクターの眼を信じればいいのでしょうけれども、実証主義者だものですから、もっと詳細を知りたい。


* * *

「オリジナル」という言葉の背後には「コピー」とか「パクリ」とか「オマージュ」とか、「オリジナルでないもの」の存在が想像されます。展示の最後にはそれらの概念を解説したパネルもあります。



しかし、この企画構成ではオマージュであれ、コピーであれ、後のデザイン、プロダクトに与えた影響という視点は重視されていません。なにしろ、「生きているうちにすばらしく真似されないオリジナルを生み出そう」なのです。極めて最近のプロダクトもセレクトされています。その後のデザインへの「影響」を考えるには新しすぎます。

「オリジナル」であるかどうかを見る基準が「プロダクトの影響関係」であれば、系統樹で示す方法もありましょう。しかしここには先も後もない、点で示すほかないプロダクトもあります。「オリジナル」であると同時に「ユニーク」なプロダクトです。


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で、この展覧会はどう見たらよいのか。

造形に着目しているとはいえ、「かっこいいデザインだな、こんどこのカタチを真似してみよ」ではないのは確かです。

そうではなくて、「こういうオリジナリティのある造形のプロダクトがある。それを生み出したデザイナーがいる。その仕事をよく観察し、そのすばらしさに感動し、アプローチの方法を考察し、もっと自分なりの造形を考えろ。」

デザインに関わる人々に対する深澤さんの檄。そう受け止めたい。

がんばりましょう。お互いに。
* * *

展覧会にセレクトされたプロダクトの特徴として、プロトタイプではなく、商品化されたものであること、なおかつ、ほぼすべてが現在生産されていて、(価格はさておき)入手可能なものである点があります。展示も基本的に現行品です。これは「オリジナルが入手可能なのだから、コピーではなくオリジナルを買え」というメッセージですね。

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